尿崩症(にょうほうしょう)とは、下垂体機能や腎臓などの働きが悪くなるために起こる病気です。尿の量が増加し、水分が失われるなどの影響が出る恐ろしい病気です。
突然変異によって誰しもかかる可能性のある病気のため、正しく症状や治療方法を把握しておくことは大変重要となります。
そこで本記事では、尿崩症の原因について、発症した際に見られる症状や治療方法も含めてご紹介します。
※この記事はメディカルドックにて『「尿崩症」とは?症状・原因・治療法も解説!【医師監修】』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
尿崩症とは

尿崩症とはどんな病気か教えてください。
尿崩症とは、腎臓でできた尿を十分に濃縮できず、大量の尿が出てしまう病気です。
通常、尿は腎臓によって十分に濃縮が行われて体外へ排出されます。これは、下垂体から分泌される抗利尿ホルモンによって調節されています。
抗利尿ホルモンとは、尿の量を少なくする作用を持つホルモンです。血液中のこのホルモンが少なくなると尿の量は増加し、血液中のホルモン量が多くなると尿の量は減少します。
これにより体内の水分量を調節しているのですが、尿崩症にかかると抗利尿ホルモンが正しく作用せず、希釈された大量の尿が出てしまいます。
何が原因で起こりますか?
尿崩症の原因は抗利尿ホルモンの分泌から、そのホルモンに対して反応する腎臓までの経路の中で異常が発生しているためです。
健康状態においては、抗利尿ホルモンは脳の一部である視床下部で生成され、下垂体へと移動・保存されます。そして、水分が足りない状況になると、下垂体から抗利尿ホルモンが分泌されるのです。
分泌されたホルモンは血液によって腎臓に運ばれ、腎臓に働きかけることで尿を濃縮します。尿によって体内の水分量を調節し、正常な水分量に保つのです。
しかし、この抗利尿ホルモンを生成・分泌するところから腎臓までの経路のどこかで異常を起こすと、尿を調節することができなくなり、尿崩症を引き起こします。
尿崩症には種類があると聞いたのですが…。
尿崩症にはいくつか種類があります。
中枢性尿崩症
腎性尿崩症
視床下部の損傷
1つ目の中枢性尿崩症は抗利尿ホルモンの分泌が正しく行われなくなることで発症します。
通常、抗利尿ホルモンは視床下部や下垂体において分泌されます。しかし、外傷や脳腫瘍の影響で、正常に分泌されなくなってしまうことで尿崩症が発症するのです。
2つ目の腎性尿崩症は、腎臓が抗利尿ホルモンに対して適切に反応しなくなったために発症するケースです。
この場合は、抗利尿ホルモンは正常に分泌されながらも腎臓が反応しないために尿崩症を発症します。また、その他にも尿崩症を引き起こす原因はあります。
例えば、視床下部の損傷によるものです。
視床下部はのどの渇きを感じる大切な役割を持っており、水分が足りない状況で渇きを感じます。しかし、手術や感染症などが理由で障害を受けると、十分な水分補給ができているにも関わらず渇きを感じることがあります。
その結果、自発的に大量の水分を摂取し、それに反応して大量の尿を排泄するという尿崩症を引き起こすのです。
尿崩症の症状を教えてください。
尿崩症の主な症状には次のようなものが代表的です。
尿量の増加
のどの渇き
大量の水分摂取
抗利尿ホルモンが分泌されない場合や、腎臓が正しく機能していないため正常に尿の量が調節できていません。そのため、尿の量が通常よりも非常に増えます。
また、大量の水分が体内から失われてしまうために、のどの渇きを感じるようになります。その結果、大量の水分を摂取するという症状も発症するのです。
多い場合は1日10L程の量を摂取して、10Lの尿を出すこともあります。そのため、脱水症状や夜間でも尿意で目が覚めることなど、別の問題が生じることもあります。
妊娠中に発症することが多いのは何故ですか?
尿崩症は妊娠中に発症することが多いといわれる病気です。その理由は、胎盤から分泌されるたんぱく質によって引き起こされるためです。
胎盤から分泌されるタンパク質は、抗利尿ホルモンを破壊するケースがあり、その結果尿の調節が上手くできなくなります。
また、胎盤からタンパク質以外にプロスタグランジンと呼ばれる物質が分泌されます。この物質は、抗利尿ホルモンに対する腎臓の反応を低下させる可能性があるのです。
そのため、尿崩症を引き起こすことがあります。しかし、妊娠中の尿崩症は一過性のケースが多く、症状も軽度であることがほとんどです。
編集部まとめ

尿崩症は、尿の量が増えてしまう病気です。それだけを聞くとあまり恐ろしい病気とは感じない人も多いかもしれません。
しかし、体内で排尿のためのメカニズムが失われている恐ろしい病気です。
体内の水分に影響を及ぼすため、併発する症状も大きく、万が一発症した場合には薬が欠かせない病気となります。
本疾患は根治が難しいながらも、投薬によって調整することは不可能ではありませんので、少しでも症状に思い当たる場合や、不安を感じている場合には代謝内分泌内科など専門医療機関に相談して適切な治療を行いましょう。
参考文献
先天性腎性尿崩症(指定難病225)|難病情報センター
尿崩症|Medical Note
中枢性尿崩症|MSDマニュアル

