
右耳難聴や子宮内膜症など、自身の体験をコミカルな漫画で描くキクチさん(@kkc_ayn)。彼女の作品のなかでも、母親の自宅介護と看取りをテーマにしたコミックエッセイ『20代、親を看取る。』は、自宅介護の現実や、親との死別と向き合う中で揺れ動く感情が描かれ、大きな反響を集めた。
本稿で紹介する漫画「父が全裸で倒れていた。」は、母を看取ってから約2年後、今度は父が病に倒れてしまう話だ。母の介護・看取りを経たことで落ち着いて対応できることは増えたものの、一人っ子として頼れる家族がいないなかで、さまざまな決断を迫られることになるキクチさん。今回は、容体が悪化してICUに戻ることになった父とのエピソードを届ける。
■「別人」と化した父…拘束されても暴れ続けた壮絶な現実



作者がICUに戻った父を見舞いに行くと、ベッドに拘束された状態で声を荒げている緊迫した状況だった。「入院時の同意書で、拘束具をつける可能性については口頭で丁寧に説明いただいたので、驚きはありませんでした。それよりも、拘束具をつけなくてはいけないくらい暴れる父の姿に対しての衝撃の方が大きかったです」と語る。
「ベッドの柵に片足をかけて(足はフリーな状態だったので)這い出ようとしていたり、拘束された腕の紐をめいっぱい引っ張ったり、そんな筋肉どこにあったの!?というくらい全力で暴れていました。ベッドの上でガタガタと揺れながら大声で叫ばれて、まさに別人という印象でした」。
さらに、「頭の中でせん妄だとわかっているのに、看護師さんに改めてせん妄かどうか確認したのは『せん妄だから気にしなくてよい』という確信が欲しかったからです。でも、たとえば飲酒をして意識が朦朧とすると、その人の本心が表れたりするじゃないですか。せん妄もそれと同じで、実は父の心の奥底ではそういうことを思っているんじゃないかって深刻に捉えてしまいました」と、当時の葛藤を明かした。
温厚で優しい父親が、そんなことを思うはずないとわかっていても、発された言葉を一度はそのまま受け止めてしまう。「受け止めずに流す技術が、このときの私にはまだ備わっていませんでした」と、自身を責めた。
※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。製品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格が異なる場合があります。

