誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
突然に誰かが告げた春の訪れに誘われて、渋谷の夜は海底の底みたいに、鮮やかにざわめきはじめた
行き場のない七色の光は波紋のように揺れ、人流は何処へ向かうでもなく街という名の荒野を漂ってゆく
耳の奥で真新しいリズムが鳴りはじめると、君の呼吸は少しだけ深くなる
「泳ぐ」というよりも「沈まずにいるためのリズム」、そんな感覚が身体いっぱいに広がって膨らむ
ビルの隙間を抜ける風は、見えない潮流のようで、押し流されるわけでも逆らうわけでもなく、ただ己の身を預ける君と僕は、船着場を見失った旅人のようで
水面に顔を出す瞬間、かすかに降り注ぐ安堵に僕ですら飽き始めている
街ゆく誰にも気づかれないまま、心だけ息を継ぐことに努力なんて必要としないほどに
純真無垢に楽しそうに見える彼らでさえも、それぞれの深さを抱えて、あらゆる痛みや傷を隠し通せていると
笑い声の奥に沈んだ絆
沈黙の中で揺れている嘘
街はすべてを受け入れ、悲惨なニュースなど、ひとつもなかったように生命の点滅を続けてゆく
透明な残酷さにそっと寄り添う君
誰よりも溺れない為の生き方を探し続ける僕
坂道をのぼると視界が開ける
ガラスに映る美しい人の輪郭が、彼らの瞳の上で踊っていた
確かなものなんて、きっと何処にもない
こうして呼吸を続けていることだけは確か
あの光の中で立ち止まり、静かに目を閉じても、軽やかなリズムは艶やかに続いていた
街は今夜も静かな水の像のように、すべてを抱きながら揺れているから

BTS『ARIRANG』(2026年、BIGHIT MUSIC)収録

