松岡充らによる“脳天突き破るヒャッハーミュージカル” 異端の最新作ミュージカル「キルバーン」で味わう「TRUMPシリーズ」の残酷で美しい世界

松岡充らによる“脳天突き破るヒャッハーミュージカル” 異端の最新作ミュージカル「キルバーン」で味わう「TRUMPシリーズ」の残酷で美しい世界

ミュージカル「キルバーン」
ミュージカル「キルバーン」 / (C)2025 WATANABE ENTERTAINMENT

2026年3月25日(水)にDVDおよびBlu-rayが発売されたミュージカル「キルバーン」は、末満健一が手掛ける演劇シリーズ「TRUMPシリーズ」の最新作。これまでの静謐な悲劇の文脈に一石を投じる特異な仕上がりとなった同作だが、同シリーズが長年にわたってファンを惹きつけてきた引力は相変わらずだ。吸血種たちの残酷な生態系が織りなす世界観の構築美、観劇後に抗いがたい虚脱感をもたらす重厚なストーリーテリング、そして点と点が結びつく瞬間の知的興奮。本稿ではそれらの要素が最新作においていかに機能しているのか、舞台上に提示された事実に基づく冷静な分析を通じて同シリーズの核心を解体していく。

【演劇シリーズ「TRUMPシリーズ」とは】
劇作家・末満健一が手掛ける「TRUMP」シリーズとは、永遠の命を持つ伝説の吸血種「TRUMP」と、不安定な思春期“繭期(まゆき)”を迎えた吸血種たちの残酷な運命を、数千年にわたる壮大な時間軸でパズルのように描き出す大人気ゴシック・ファンタジー演劇シリーズです。

■TRUMPシリーズを形作るシステムとキーワード

TRUMPシリーズの根底を支えるのは、吸血種(ヴァンプ)という架空の人種とその生態。いわゆる人間種と吸血種が共存している世界観で、どこか薄暗いゴシックな雰囲気を漂わせる。人間と吸血種といえば自然に対立構造をイメージする人も多いと思うが、TRUMPシリーズにおける吸血種は一般的な“吸血鬼”のルールに縛られない。

彼らは太陽をいとわないし、生きるために血を必要とするわけでもない。そしてなにより一般のイメージと異なるのが、吸血種であっても不老不死ではないという点だ。

吸血種は永遠の命を失い、もはや「不老不死」という概念はおとぎ話のなかの言葉になっていた。そんな彼らの間で伝説としてささやかれるのが、原初の吸血種「TRUMP」。「True of Vamp」の最初と最後を取って作られた言葉で、不老不死の吸血種を表す。

TRUMPシリーズの世界観を大いに楽しむには、さらに理解しておくべきキーワードがある。彼らの世界を形作る「繭期(まゆき)」だ。これは吸血種の少年少女が成人に至る過程で必ず通過する、いわゆる思春期に近い言葉として説明されることが多い。

しかし人間の思春期に比べて、吸血種を襲う繭期の症状は極めて重篤。強烈な情緒不安定状態、幻覚、妄想、過度な執着、あるいは破壊衝動といった精神の異常を伴うため、症状が出始めた吸血種は基本的に「クラン」と呼ばれる施設へ隔離される。

繭期にある若者たちの感情は制御不能であり、その純粋さゆえにしばしば取り返しのつかない事態を引き起こす要因ともなる。さらにその繭期を強制的に引き起こす薬物「COCOON」や、繭期の状態にある者が“同じ夢”を見る「共同幻想」、吸血種が噛むことによって他人の支配権を握る不可逆の「イニシアチブ」。これらのワードもまた、TRUMP世界を形作る重要なキーワードだ。

さらに、不老不死のTRUMPにまつわる同シリーズは時間の経過もキーワードの1つ。ある時代におけるひとつの事象や選択が、数百年後の時代における別の悲劇の前提条件として機能する。場合によっては数千年もの壮大な時間軸を用いたパズル的構造が、TRUMPシリーズの世界観の骨格を成す。

だがそれでいて、各作品のどこから見始めても楽しめるのも同シリーズの魅力。過去作を見ていれば気づける楽しみを散りばめておきながら、作品はそれぞれが単体として成立する。最新作ミュージカル「キルバーン」で初めて興味を持った人でも、「前作までの知識がないとチンプンカンプン」ということはない。

とはいえ、見終わったあとはシリーズ過去作品に手を伸ばしたくなるのは変わらないのだが。

■ひと味違う“狂騒”の「キルバーン」

最新作であるミュージカル「キルバーン」は、前述した静謐で重厚なシリーズの作風とは一見異なるタイトルだ。物語の舞台となるのは“不死卿”ドナテルロが棲む閉ざされた館。そこでは夜毎、繭期の症状を悪化させた吸血種たち(通称・繭期ジャンキー)が不死卿の命を奪おうと終わりのない殺戮を繰り返しているという。

失われたはずの不死、おとぎ話の存在であるはずのTRUMPが存在する謎。切っても(キル)焼いても(バーン)死なない…不死卿とはいったい何者なのか。しかしありとあらゆることがネタバレに繋がる精緻な構成が特徴の同シリーズだけに、ここでストーリーについて話せることはない。まずは見てもらうしかないのだ。

そんななかでも挙げられる魅力といえば、本作が「第四の壁(舞台と客席を隔てる見えない壁)」を意図的に破壊している点だろう。キャストは客を「共同幻想がもたらした幻覚」として扱い、直接的なパフォーマンスを展開して視覚的・聴覚的な刺激を飽和状態にまで引き上げていく。観客は安全な傍観者であることを許されず、館でおこなわれる狂騒の宴に強制的に巻き込まれる。

「キルバーン」にはロックバンド「SOPHIA」のボーカリスト・松岡充、「CHEMISTRY」の堂珍嘉邦、舞台「鬼滅の刃」シリーズで初代竈門炭治郎役として主演を務めた小林亮太などがシリーズ初参戦。凶悪なまでの歌唱力で劇場をTRUMPの世界で塗り上げた。

「脳天突き破るヒャッハーミュージカル」というキャッチコピーもまた、これまでのTRUMPシリーズからすると異端。だがコミカルな演出も交えつつ、重厚な物語と張り巡らされた伏線は間違いなくTRUMPシリーズの色をしている。

■避けられない虚脱感と知的興奮のメカニズム

筆者はTRUMPシリーズの観劇後、特有の虚脱感に見舞われることが多い。悲劇とひと言で表すには重すぎる選択の衝撃と、残酷な運命のめぐり合わせに言葉を失う。だがこれは、物語の結末が単に悲惨だからではない。緻密に組み込まれた物語の進行とともに、“どうしようもなかった”ことを理解させられるからだ。

たとえば過去作との繋がりを「気づかせる」演出とせりふ回しは、強烈な知的興奮とともに無力感を叩きつけてくる。難解な“気づく人は気づく”匂わせ要素ではなく、過去作を知っている人は「その名前は…」「その言葉は…」と心を殴られるかのような衝撃。頭で物語の構造と背景を理解できるからこそ、巨大な感情を消化しきるまでに時間がかかってしまう。

見事に単体で完結しつつも、異なる作品の点と点をしっかり結ぶ構造。それでいて舞台側からの説明ではなく、観客自身の脳が自然と「これは!」と理解してしまうストーリーテリングの妙が同シリーズの魅力と言える。

ファンなら迷わず過去作を見直し、シリーズ初見の人も思わずシリーズの別作品へ手が伸びてしまう演出には舌を巻くしかない。TRUMPシリーズの最新作ミュージカル「キルバーン」は初回限定豪華版を含む三形態で販売され、初回限定豪華版Blu-rayは三方背ケースに加えて特典DISCもついた2枚組仕様。なお公式ページでは過去作含む各タイトルがいつの時代の物語かを、年表で公開している。どのタイトルから見るか悩むタイプの人は、そちらを参考にしてもいいだろう。

本シリーズが描く「狂気」とは、突発的な異常行動や流血を指す言葉ではない。永遠の命に対する不条理な執着、そして数千年にわたって連鎖し続ける呪いのような歴史。その巨大な因果律の網の目の中でもがく生命の姿そのものが狂気だ。

狂騒を纏った「キルバーン」もまた、その系譜に連なる物語。誰が誰の夢を見ているのか、見ている景色は幻想なのか、真実はどこにあるのか。強烈な没入感のゴシック世界に入門するのは、いまからでも遅くはない。

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