
芸名、ペンネーム、ネット上のハンドルと、本名以外の名前を使う場面は今の時代も多々あるもの。それがさらに進んで、本名を使うことが珍しい世界になったら――?
創作漫画をコミティアなどの即売会で発表しているなまくらげ(@rawjellyfish)さんが描いたオリジナル漫画「となりのあの子はビジネスネーム」は、日常のあらゆる場面で仮名を使い分けることが当たり前になった時代を描いた短編作品だ。職場でも「ビジネスネーム」でやり取りする世界で、主人公の青年・緒爪は、同僚の「須藤むにか」のことが気になっていた。いつか本名で呼び合うような関係にと夢想していた緒爪だが、ひょんなことから須藤の本名を知ってしまい――、というストーリー。
現実でもプライバシー保護の考えが広がり、以前より実名を使わない・教えないケースが増え続けていることもあり、本名を使わない世界にどこかリアリティを感じさせる同作。そんな作品の舞台裏を作者のなまくらげさんに訊いた。
■重要なのは、本名かどうかよりその背景にある関係性



本作が生まれたきっかけは、SNSで見かけた「とあるコンビニでは店員がビジネスネームを使っている」という旨の投稿だったという。作者のなまくらげさんは「真偽は確かではないものの、考えてみれば店員さんの本名がレシートに印字されてしまう今の状況には違和感を感じるところがある」と話し、「芸能人や漫画家のようにハンドルネームが主流になっていってもおもしろいかもなぁと思い、自分自身にとっても、仕事を除けばハンドルネームでやりとりすることの方が多かったりするので、感覚として近い所もありました」と、「本名を明かさない世界」に対する考えを語ってくれた。
本作「となりのあの子はビジネスネーム」に登場する“緒爪くん”と“須藤さん”は名前の使い方が両極端な二人だが、なまくらげさんは「仮名と本名にそれぞれの良し悪しがあると思うので、比較になれば」という理由で、少し両極端な二人に設定したのだそうだ。
「今回はページ数の関係であまり深く掘り下げられなかったのですが、仮名が当たり前になった世界であえて本名を使い続けている人物を出すことで、実名にも意義はあるかもしれないという思考の余地を残したかったんです」と、本作に込めた狙いを明かしてくれた。
「重要なのは本名かどうかより、その名を呼ぶ関係性の方ではないでしょうか」と話すなまくらげさんは、もし今後、現実に名前に対する取り扱いに変化があったとしても「その背景にある関係性の方を大事にしていきたい」との思いがあるという。
読む人それぞれの、名前と人間関係に対する価値観について考えさせてくれる作品だ。
取材協力:なまくらげ(@rawjellyfish)
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