
「最近、ゲームに負けるとA子に話しかける遊びが流行ってる」――漫画家・グラハム子さん(@gura_hamuco)の息子くんが、ある日そんな話をしてきた。話しかけた様子を遠くから見て笑う。本人たちは“ただの遊び”のつもりでも、そこには確かに誰かを傷つける構造がある。今回は、男子特有の競争的・攻撃的なコミュニケーションを描いた漫画「メンズトーク」を紹介するとともに、その背景にあるものについて話を聞いた。
■「ただのノリ」で誰かを傷つける、男子特有の空気



今回のテーマは、グラハム子さんが描いた「メンズトーク」。たとえば「●人とやったぜ」「あいつボコした」といった、男子同士の中で交わされる攻撃的・競争的な会話やノリを指す言葉だという。グラハム子さんがこの言葉を知ったのは、水谷緑さんの『こころのナース夜野さん』(小学館)を読んだことがきっかけだった。「そこから興味を持ち、自分でもメンズトークについて調べていきました」と振り返る。
■“男らしさ”の裏で育つ、競争と優位性の会話
『こころのナース夜野さん』では、暴力やDVをしてしまう加害者男性たちの更生プログラムが描かれていたという。そこでは、男性特有の生きづらさや、幼少期から積み重なった価値観、そして社会や文化の影響に当事者たちが気づいていく。
その視点から見たとき、「メンズトーク」は単なる悪ふざけではなく、資産、年収、学歴、仕事、運動能力、女性遍歴など、“自分が相手より上に立つ”ための競争的なコミュニケーションの延長線上にあるものとして見えてくる。
■「A子に話しかける遊び」が映し出す残酷さ
息子くんの仲間内では、「ゲームに負けたらA子に話しかける」という遊びが流行っていたという。彼女に話しかけ、その様子を遠くから男子たちが見て笑う。グラハム子さんが「それの何が楽しいの?」と聞くと、息子くんは「みんなが笑ってると、楽しい気がしちゃう」と答えた。その一言には、悪意が“空気”に紛れて広がっていく怖さがにじんでいる。
■“からかわれる側”だった記憶は、大人になっても残る
実はグラハム子さん自身も、中学時代に似た経験をしている。当時、男子から「ハム子、かわいいね~」とからかい半分で声をかけられていたという。しかも、こうしたターゲットになるのは、男子と気軽に絡めるような“陽キャ”や、いわゆる目立つかわいい子ではない。どちらかといえば、おとなしく、芋っぽいと見なされる女子が狙われやすい。だからこそ、された側は“好意”ではなく“笑いものにされている”ことを察し、みじめさや屈辱を一人で抱えることになる。
■不快さは消えない。それでも背景を知って見え方は変わった
当時は「ただただ猛烈に不快」だったというグラハム子さん。しかし、大人になってメンズトークの背景に社会的な構造や、男性側の生きづらさがあることを知り、少し見方が変わったと話す。「不快なのはもちろん変わりませんが、メンズトークをしてしまう側も『根底には苦しさを抱えているのかもな』と」。
最近は「男らしさにも、いいものと有害なものがある」「それは社会の中で身につけてしまったもので、今からでも変えられる」という価値観が少しずつ広まってきているとも感じているという。
■自分の痛みを、息子にまっすぐ伝えた理由
息子くんには、自分の過去をそのまま伝えたという。「『母さんも昔それをやられたことがあるけど、とても悲しくて惨めな気持ちになったよ、こんなこと誰にも話せなくて、家に帰って1人で泣いたよ』と自分の経験を伝えました」。
息子くんは静かにその話を聞いていたそうで、「響いてくれているといいなと思います」と語った。11歳という年頃の男の子に、その言葉がどこまで届いたのかはわからない。けれど、“笑って済ませる側”に立つ前に、傷つく側の感情を知ることには大きな意味があるはずだ。
■名前が変わっても、構造はあまり変わらない
本作は、『娘がパパ活をしていました』を執筆していた時期の出来事でもあったという。女子高生による「パパ活」も、かつては「援助交際」と呼ばれていた。時代によって言葉は変わっても、その奥にある問題の本質は、そう簡単には変わらない。グラハム子さんは今回のエピソードを通じて、そうした“名前を変えながら続いていくもの”にも改めて気づかされたという。
男子の“ノリ”として見過ごされがちな会話や遊びの中に、誰かを静かに傷つける構造が潜んでいる。だからこそ、この作品は「あるある」で終わらせず、一度立ち止まって考えたくなる。
取材協力:グラハム子(@gura_hamuco)
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