銀行の本店はなぜ、あれほど仰々しいのか。なぜ銀行は儲かるのか。証券会社や保険会社は、本当に顧客本位で動いているのか――。私たちの生活に深く関わる金融の世界には、知っているようで知らない“仕組み”と“裏側”があります。
そんな金融業界のリアルを解き明かすのが、金融ジャーナリスト・鈴木雅光さんの著書『銀行の本店はなぜ仰々しいのか? 金融業界の謎』。本書では、銀行・証券・保険といった身近な金融機関の構造や慣習、そして不祥事が繰り返される背景まで、豊富な知見と取材をもとにわかりやすく解説しています。本記事では、その一部をご紹介します。
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ホールディングスの社長と銀行頭取、偉いのはどっち?
前述したように、今のところ持株会社は、事業持株会社と金融持株会社とに分かれているのですが、正直なところ、これがずるいのです。
前にも述べましたが、事業持株会社は傘下に金融を持つことができるのに、金融持株会社は自由に事業会社を持つことができないからです。
たとえば楽天グループは楽天市場というイーコマースの会社を中心にして、傘下に楽天証券のような金融機関を持っているのですが、金融持株会社はイーコマースの会社を傘下に持つことができないルールになっています。
なぜ、この「ワンウェイ規制」が設けられているのかというと、銀行が他業種に参入すると、銀行業務に専念していた時とは違う種類のリスクまで取らざるを得なくなり、銀行経営が不安定になることを避けるため、というのがひとつです。
あるいは、銀行が他業種に参入すると、自行の利益を優先するべく、他業種の競争相手に対して公正な取引を行わなくなるケースも想定されます。
こうしたことから金融持株会社には厳しいワンウェイ規制が課せられてきたのですが、この規制があると自由競争の観点から金融持株会社にとって不利になるので、規制を緩和して、金融持株会社も事業持株会社になるべきだという議論も出てきています。
ここは今後、大きな論点になるかもしれませんし、これが実現すれば、銀行のビジネス領域が拡大して面白い競争が展開されると思います。

「ホールディングス社長>銀行頭取」が基本構造
では、金融持株会社の場合、ホールディングスの社長と銀行の頭取、どちらが偉いのでしょうか。
基本的には、ホールディングスの社長が序列としては上になります。
ただし例外もありました。三井住友フィナンシャルグループは、どちらかというと三井住友銀行頭取が、三井住友フィナンシャルグループの社長よりも序列は上という状態が長らく続いていましたが、現在はいろいろ事情があって、他の金融持株会社と同様、ホールディングスの社長が銀行頭取よりも上という序列になっています。
また地方銀行だと、ホールディングスの社長が銀行頭取を兼ねるパターンもありますが、これはかなりの激務になります。
何しろホールディングスの社長として株主対策をやりつつ、銀行頭取として地元貢献から、地元の大口融資先の決済までこなさなければなりません。
前述のとおり近年、銀行法の改正によって、子会社や兄弟会社を通じてフィンテック企業や地域商社の設立、さらに銀行の付随業務として「ITシステムの販売」「データ分析、マーケティング・広告」「登録型人材派遣」など業務が多様化してきたので、ホールディングスの社長と銀行の頭取を兼務するのは、ますます困難になってきています。
そんなことでトップに過労死されても困るので、地方銀行もゆくゆくはホールディングスの社長と銀行頭取の兼務は解消されていくと思います。
ところで、ホールディングス社長が銀行頭取に比べて序列が上となると、出世意欲のある人は「それならホールディングスに入社したほうが出世の近道では?」と思うかもしれません。ですが、いきなり新卒でホールディングスに入社し、そこでキャリアを積むというケースはあまりないようです。
ところで、かつての銀行、とりわけ都市銀行などの大手銀行は、就職活動における人気企業ランキングの上位常連でした。
しかし「失われた30年」の間に、依然として一定の人気は保っているものの、冒頭で触れた株式時価総額ランキングの低下と軌を一にするかのように往時の勢いは失われています。
もはや、かつてのように特定の難関大学の学生を集中的に採用することは難しくなり、霞が関のキャリア官僚と同様、東京大学の学生人気にも翳りが見え始めています。

