「妊娠中に放置されたことも…陽向くんが熱を出してるのに、飲み会行ったことも」
思い出したくない場面が、鮮明によみがえる。
「あの人、明るいけどさ…自分中心なところあったよね?」
(否定できない)
いつも、あいまいな笑いでごまかす。自分が正しいと信じてうたがわない。私の不安を「考えすぎ」で片づける。健吾は、私の悩みに、真剣に向き合ってくれたことがあっただろうか…。
「不倫もそうだけどさ…ああいう人って、根っこは変わらないと思うんだ」
美咲の声は冷静だった。責めるでもなく、感情的でもなく、ただ、事実をならべるように。
「父親としてはいいかもしれない。でも、夫婦として、真由がしあわせになれるかどうかは、別問題じゃない?」
彼女の言葉が、静かに刺さる。私は視線をおとした。
友人の正論に何も言えない
元夫・健吾が「よき父」として自立し、変貌をとげた姿を目の当たりにした真由は、心が揺れ動きます…。このことを友人に相談すると、見透かされたような答えが返ってきました。
恋人・直人は、とても穏やかで誠実な人。健吾と比べると、優しすぎて「つまらない」と感じることがありました。ですが、友人に「穏やかに過ごせる相手は、とても大切」と説かれ、真由の心から次第に迷いが消えます。
久しぶりに元夫と過ごした夜
その日は、健吾が家に泊まることになった。台風で電車が止まり、帰れなくなったからだ。
陽向は「パパとねる!」と大はしゃぎで、布団にもぐり込み、あっという間に眠ってしまった。
リビングに戻ると、静けさが広がる。久しぶりに、健吾と2人きりだった。
「……なんか、変な感じだな」
健吾が苦笑する。
「……だね」
お互い、少し距離を保ったままソファーに座る。テレビもつけず、ただ雨音だけがひびいている。
「この家、やっぱ落ち着くな」
健吾がぽつりと言った。
「……前はさ、俺、ちゃんと見てなかったんだよな」
私はだまって聞く。
「真由がどれだけがんばってたかも…陽向のことも…」
しばらく沈黙が続いたあと、健吾は深く息を吐いた。
「……ごめん」
その一言は、思っていたよりもおもかった。
「…不倫のことも、あのころの態度も。俺、本当に最低だった」
いつも不機嫌だった。私の不安を笑って軽んじた。陽向が熱を出しても、飲み会を優先した夜──。
全部、全部、胸の奥に残っている。でも…
「もう、過ぎたことだから」
自分でもおどろくほど、静かな声だった。
ゆるしたわけじゃない。忘れたわけでもない。ただ、それにしばられて生きる時間は、もうおわりにしたいと思った。
離婚後も、定期的に「父子の時間」を設けるようにしてきました。この日は、台風でたまたま一緒に過ごすことに。すると、健吾は償いの言葉なのでしょうか?ぽつりぽつりと、反省の言葉を口にします。
しかし、真由にとっては過去のできごと。許すことも、忘れることもできませんが、前に進むことを決めます。そして、今しかないと思い「直人さんと結婚する」と告げます。

