一般社団法人「全国妊娠SOSネットワーク」の代表理事で、医師の佐藤拓代(たくよ)さんは、小児科、産婦人科、保健所といった現場で、虐待に苦しむ子どもや望まない妊娠に悩む女性たちに向き合ってきた。
なぜ赤ちゃんの遺棄事件は後を絶たないのか。佐藤さんに「妊娠を知られたくない女性たち」の実像を聞いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●出産後の「選択肢」を示す支援が必要
──熊本に続いて、東京や大阪でも「赤ちゃんポスト」の設置が広がっています。どのように見ていますか。
赤ちゃんポストの必要性を感じる人たちが、出産費用を負担して取り組んでいるので、一定の理解はできます。ただ、預けられる子どもにとってはどうなのか、という疑問もあります。
成長したとき、自分の親がどんな人だったのかを知りたいと思うはずです。事情があって育てられなくても、「あなたはとても大切な存在だった」と伝えられる関係であってほしい。
出産を「なかったこと」にせず、安心して産み、その後に複数の選択肢を持てる支援が必要だと思います。

●恐れるのは「家族に知られること」
──望まない妊娠、出産に直面する女性たちは、どのような状況にありますか。
多くは「親や夫(パートナー)に知られたくない」という恐怖を抱えています。
「親にバレたら殺される」と訴えてきた子もいました。親の扶養に入っている女性は、医療機関で保険証を出すことで、妊娠が露見するのを恐れています。
親が期待する「子ども像」を壊したくない一心で、妊娠を隠す高校生もいました。お腹が目立たず、周囲に気づかれないまま出産に至るケースです。
また、生活苦から性風俗で働くうちに妊娠する女性も少なくありません。
孤立出産に至る人は、そもそも「SOSを出せない人」です。おそらく、大切にされず育った経験を持ち、人を信じられないまま妊娠、出産に追い込まれるのだと思います。
知能指数が平均と知的障害の境界にある「境界性知能」の人もおり、母子健康手帳に書かれた細かい文字を正確に理解できない場合もあります。


