●妊娠期から寄り添う相談員が不足
──現場ではどのような支援をしていますか。
相談は匿名でよく、電話・メール等で受け付けています。
「一人で産みたい」と言う人には「あなたの産後の会陰部(えいんぶ)が心配」といった視点で寄り添います。「赤ちゃんのために」という言葉では心を開いてもらえません。
「妊娠したかもしれない」と打ち明けてくれるのは、信頼の証です。まずは「よく相談してくれましたね」と伝えます。
決して「医療機関を受診しなきゃダメですよ」と上から言うのではなく、本人の話に耳を傾けながら出産につなぐ支援をしています。
こうした対応には複数の職種が連携することが不可欠です。日本は相談員の数も専門性も圧倒的に不足しています。
ドイツでは人口4万人に1人の妊娠葛藤相談員を配置していますが、日本はほど遠い状況です。そこで私たちは相談員を育成する研修を実施しています。

●役所窓口の「妊娠おめでとう」は押し付け
──社会の課題をどう見ていますか。
日本の性教育は弱すぎます。中学の指導要領では、妊娠のプロセスを扱わず、コンドームが出てくるのもエイズの感染症予防の観点からです。
しかし、コンドームの着用は男性主導の行為です。女性が主体的に選べるピルなどはほとんど触れません。
意思決定の場に、子育て経験のない男性が多いことも一因でしょう。フランスやドイツでは、より具体的な性教育がおこなわれています。
妊娠届の窓口も相談しにくい環境です。役所のパーテーション越しに性や妊娠の悩みを語れるでしょうか。
母子健康手帳を受け取るときに「妊娠おめでとうございます」と言われ、つらい思いを抱える人もいます。価値観の押し付けは避けるべきです。


