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柿澤勇人、“文化”のぶつかり合いの中で自分を磨き、形作る【てれびのスキマ】

柿澤勇人、“文化”のぶつかり合いの中で自分を磨き、形作る【てれびのスキマ】

■人間国宝の家に生まれ育った柿澤

その美しい所作と破天荒なキャラクターのギャップに釘付けになる。ドラマ「終のひと」(TBSほか)で余命宣告を受けた主人公の葬儀店社長・嗣江宗助を演じる柿澤勇人のことだ。これが意外にもドラマ初主演。いまやミュージカルやストレートプレイの舞台だけではなく、映像作品にも欠かせない存在となった。

曾祖父が浄瑠璃の語り手・清元志壽太夫、祖父は三味線奏者・清元榮三郎という共に人間国宝の家に生まれ育った柿澤。しかし、芸事の世界には興味がなかった。いや、それ以上に「怖い」と感じた。曾祖父は亡くなる寸前の100歳まで唄い、祖父はどこに行くときも三味線を持ち、ガンに侵されたときも点滴や採血のときに腕に注射することは商売道具だからと断固拒否していた。そんな姿に畏怖の念を抱いたのだろう。

■劇団四季での活躍から一転、地獄の日々に

幼稚園から大学までエスカレーター式の学校に通っていたが、サッカーに熱中していた彼は、プロの選手になりたいと高校はサッカーの強豪校・都立駒場高校を受験し進学した。だが、そこで大きな挫折を味わった。すぐにプロにはなれないと悟ったのだ。そんな高校1年生のとき、課外授業で観たのが劇団四季の「ライオンキング」だった。

その瞬間、「これをやってみたい!」と思った彼は、終演後すぐに「ここにはどうやったら入れますか」と担任の先生に尋ねたという。「こういうとこには、ちっちゃい頃からやってきた人が行くんだよ」と諭されたが、数日後には劇団四季のCDを買い、それをMDに入れ、サッカーの試合前に聴いてモチベーションを高めていた(「ほぼ日刊イトイ新聞」2023年8月14日)。

家族からも猛反対されたが、「1回オーディション受けてダメだったらやめよう」と決意して受けると見事合格。研究生は通常1年ほどは練習漬けになるが、半年で初舞台を踏むと、翌2008年には「人間になりたがった猫」で主演。念願の「ライオンキング」にも出演を果たした。

トントン拍子で、「自分は天才なんじゃないか」と勘違いした(「双葉社THE CHANGE」2024年4月14日)。ミュージカル以外でも活躍できるんじゃないかと考え、2009年に劇団四季を退団したのだ。しかし、そこからが地獄だった。これまですべて受かってきたオーディションにことごとく落ちていった。

■蜷川幸雄、三谷幸喜との出会い

そんな中、ターニングポイントになったのが蜷川幸雄との出会いだった。彼が演出する舞台「海辺のカフカ」(2012年)に出たいと直談判するも最初はダメだった。だが、稽古場に行くことは許され通っていた。そんなある日、書店で立ち読みしていると蜷川にばったり出会い、「じゃあ、お前にするか」とカラス役が決まった。

劇団四季の美しく正しい世界観とは真逆。そこで培ったものを稽古で表現しても「それは正しいけど、正しくない」と毎日のようにダメ出しされ、鼻っ柱が折られた。「世の中には汚いもの、イヤなものもある。それを鏡のように映すのが役者だ」(「テレ朝POST」2024年3月8日)というのが蜷川の考え方だったのだ。

そしてもうひとつのターニングポイントが三谷幸喜との出会いだった。三谷はミュージカル「メリー・ポピンズ」(2018年)でハッピーに歌って踊る煙突掃除人を演じている柿澤を観て「僕のシャーロック・ホームズがいた!」と思い(同前・2024年3月12日)、彼を「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」(2019年)の主演に抜擢した。

■芝居を「楽しんでいい」…これまでとは異なる光景

ちょうど、思い描いていた自分と現実の自分とのギャップに限界を感じ、悩んでもがいていた時期だった柿澤は救われた。劇団四季を退団して以降、芝居は泥水を飲みながら苦しんでやるものだ、と考えていたのだ。だが、三谷の舞台は違った。

「楽しんでいいんですよ」

そんな雰囲気だったのだ(「ほぼ日刊イトイ新聞」2023年8月17日)。そこにはそれまでとはまったく違う景色が広がっていた。そして三谷脚本の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022年NHK総合ほか)の源実朝役で映像の世界でも飛躍的に知名度が高まっていったのだ。

人間国宝の荘厳な世界に触れて育ち、劇団四季や蜷川幸雄、そして三谷幸喜とスタイルも哲学もまったく異なる演出を受けてきた。“文化”のぶつかり合いの中で自分を磨いた、そのハイブリッドこそ、怖さ、強さ、自由さ、苦しみ、楽しみ…、すべてが美しい所作に宿る柿澤勇人を形作ったのだ。

文=てれびのスキマ
1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「王者の挑戦 『少年ジャンプ+』の10年戦記」

※『月刊ザテレビジョン』2026年4月号

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