これは、娘がまだ中学生だったころの出来事です。会社を退職してフリーで仕事をしていた私は、学校のPTAで広報委員を引き受けることになりました。妻は会社勤めで忙しく、家の事情もあって私が担当することにしたのです。
PTA広報委員の仕事を引き受けた理由
広報委員の仕事は、学校のホームページに掲載する記事の作成やシステムの更新作業などでした。私は以前、記者として働いていた経験があったため、原稿を書くこと自体はそれほど苦ではありませんでした。
作業は月に一度、学校に集まっておこないます。ただ、私たちが住んでいる地域は比較的裕福な家庭が多い住宅地で、集まる保護者の多くは専業主婦でした。実際の作業は、私と、もう一人のあまり飾り気のない女性Aさんの2人で進めることがほとんどでした。
その間、他の保護者の方たちはお茶を飲みながら雑談をしていることが多く、時折、家庭や夫の仕事の話で盛り上がっている様子でした。
ふとした会話から生まれた場の空気の変化
ある日、保護者の1人、Bさんが私に声をかけてきました。
「パソコンを扱えるなんてすごいですね」
「私は仕事の経験がないので」
褒めているのか、それとも別の意図があるのか、少し判断に迷う言い方でした。その流れで、Bさんは私と一緒に作業していたAさんにも「以前はどんなお仕事をされていたんですか?」と質問しました。
すると、そのお母さんは落ち着いた様子で、「医師です」と短く答えました。その場の空気が、一瞬静かになりました。

