被害拡大で方針転換 政府・金融庁が動いた理由
とはいえ、あまりにも被害が拡大したことから、政府機関も動かざるを得なくなり、たとえば加藤勝信前金融担当大臣は、誠実な対応を取ることを証券会社に対して求めたり、金融庁が証券会社に対して、セキュリティ対策が不十分な場合は業務改善命令を出せるように監督指針を見直すという動きも見られました。
その結果、各証券会社は多要素認証の導入を進めました。また、対応内容には各社で違いがあり、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、みずほ証券のような大手は、不正に売却された株式の返還や、不正に購入された株式の削除といった原状回復措置を講じました。一方、インターネット証券は被害額の50%を補償する方針を示しています。
80代の男性のもとに「配当に関するお知らせ」を装った精巧なメールが2025年の6月に届き、偽サイトへ誘導されてIDとパスワードを盗まれたというケースでは、数日後に口座を確認すると、5億円相当の株式が勝手に売却され、取引も出入金も停止されたままだったとのことです。
「2分の1補償」を掲げるSBI証券に対し、男性は不正に売却されたすべての有価証券の返還を求め、2025年11月に提訴しました。
男性が「老後のためにすべてをかけ資産を積み上げてきた」と訴える一方、SBI証券は「顧客の認証情報が自社側から漏洩した可能性はなく、返還義務もない」と反論しているとのことです。
今回のケースは、投資家保護と自己責任の境界を改めて問いかけるものであり、投資家にとっては今後の判決から目が離せない裁判と言えます。

金融機関はなぜ長らく「顧客本位でない」ことを続けられたのか
これは証券会社に限らず、銀行や保険会社にも当てはまりますが、総じて金融機関には、儲けようと思えば簡単に利益を上げられる構造が内在しています。
証券会社であれば、多大なリスクとコストが利用者に転嫁されるにもかかわらず、その事前説明が不十分な仕組債をガンガン販売したり、保険会社であれば加入者からの保険金請求に対し、告知義務違反を理由に支払いを拒むといった事例が、過去に大きな問題となりました。
そして、販売の最前線に立つ社員のなかには、こうした行為が組織の発展につながると信じ、悪いことをしているという認識が希薄な場合もあります。ある意味、誰もが“ダークサイド”に引き寄せられる誘惑に満ちた業界ともいえるのかもしれません。
だからこそ、金融機関の設立には厳しい制約が課されています。銀行や保険会社をつくるには免許が必要です。証券会社は銀行や保険会社ほどではないにせよ、複数の厳しい要件を満たして初めて登録が認められます。

