金融業界では、なぜ“顧客より儲け”になりやすいのか
誰もが簡単に設立できるものではありません。金融機関は「儲けようと思えば儲けられる」強力な仕組みを内包しているため、高い参入障壁が設けられているのです。
従来、金融機関には「ミニマム・スタンダード」と呼ばれる、必ず遵守すべき最低基準が課せられていました。しかし一部の金融機関は、この基準を逆手に取り、「この規制さえ守れば、あとは何をしてもよい」と捉える傾向がありました。これは、「ルールさえ守れば何をしてもいい」といった稚拙な発想と同じであり、道徳意識の頽廃につながる危険な考え方です。
それではさすがにまずいので、今、金融機関に対する規制は「ミニマム・スタンダード」というルールから、「プリンシプル」へと移行しています。
プリンシプルとは原理原則のことで、ここに生まれたのが、先にも触れた「顧客本位の業務運営」の原則なのです。
顧客本位の業務運営とは、お客さんにとって、よりよいことを実践することです。そこにさまざまな創意工夫をこらし、金融業界の底上げを図っていくのが、目下、金融行政の柱となっています。
しかし、よく考えてみれば、顧客本位などというものは、たとえば小売業界やサービス業界などでは当たり前のことです。「高値を吹っ掛けて儲けてやろう」などと思ったら、同じものをもっと安い値段で販売している小売店にお客さんを持っていかれてしまいますし、粗悪品を販売していたら、やはり他のもっと良質なものを販売している小売店に、お客さんを取られることになります。
ところが、同じ客商売なのに、なぜか金融機関は規制に守られながら、顧客本位ではないことを平気で行ってきました。
すべての原因は「情報格差」にある
その原因が何かを考えていくと、「情報格差」という言葉が浮かんできます。つまり金融機関とお客さんの持っている情報の質と量が、あまりにも違うのです。
2008年にリーマンショックが起こった直後から、証券会社は「通貨選択型ファンド」という投資信託を積極的に販売しました。今まで投資をしたことのない人たちにとっては、何が何やらさっぱりワケのわからない商品だと思います。
たとえば日経平均インデックスファンドを買う場合、私たちは円で購入します。日本の株価インデックスですから、円で買うのが当然です。
ところが通貨選択型ファンドの場合、日経平均株価に連動するインデックスファンドを買うのに、なぜかブラジルレアルという、ブラジルの通貨に転換し、ブラジルレアルと円を為替ヘッジしたうえで購入するという、複雑怪奇な仕組みを持っているのです。
これによって日経平均株価の値上がり益に加え、ブラジルレアルと円をヘッジした際に発生する超過収益も得られるという建付けになるのですが、複雑な分だけ高いコストを負担することになります。
高いコストと複雑な仕組みの商品を購入することで得られる期待リターンを考えると、円で普通に日経平均株価に連動するインデックスファンドを買ったほうがよいに決まっています。
しかし、そのような仕組みに潜んでいるリスクを知らないお客さんは、何やら高いリターンが期待できるのではないかと考えて、勧められるがままに購入してしまうのです。

実際、私が知っている金融のプロフェッショナルで、仕組債や通貨選択型ファンドを買っている人は、一人もいません。
「貧すれば鈍する」という言葉があるように、まさにバブル崩壊後の金融機関は、顧客本位、つまりお客さんのためになることをするのが当たり前なのに、それができなくなるほど追い詰められていたということでもあるのでしょう。
儲け主義に走ったバブル期からなのか、それとも「貧すれば鈍する」を地で行ったバブル崩壊後からなのかはわかりませんが、少なくともこの失われた30年で、金融業界のモラルが大きく後退したのは事実です。
「顧客本位の業務運営」というプリンシプルが、その金融業界のモラルを取り戻すきっかけになるのかどうか、その行方が注目されます。

