無重力の宇宙で、ラーメンは食べられるのか。お風呂やトイレはどうするのか。狭い空間で、どうやって心と人間関係を保つのか――。夢とロマンに満ちた宇宙での暮らしには、地上とはまったく異なる現実があります。
そんな〝宇宙生活のリアル〟を教えてくれるのが、3度の宇宙飛行を経験し、ギネス記録も持つ宇宙飛行士・野口聡一さんの著書『宇宙でラーメンは食べられるか 宇宙暮らしのロマンと現実』です。宇宙で実際に暮らしてみて初めてわかる驚きや工夫、そして人間らしい悩みや楽しみについて、本書から一部をご紹介します。
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命に関わる三つの災害 地震や台風よりおそろしいのは?
第2章で、ISSに到着して最初にすることは避難経路の確認という話をしました。地上と同じように、宇宙でも災害のリスクがあります。ただ、宇宙では災害が起きた場合に助けてくれる人はいません。もちろん、地上の管制官たちも協力はしてくれますが、行動できるのは宇宙にいる自分たちのみです。地上でも日頃から災害に備えるのが大事といわれますが、宇宙の暮らしではそれ以上に日頃の訓練や準備が大事だと心得ておきましょう。
宇宙での災害のうち、とくにおそろしいのが、①空気もれ、②火災、③有害物質もれ、の「宇宙三大災害」です。
空気もれは、ISSの外壁のどこかに穴ができることで起こります。ISSに穴が空くおもな原因は、隕石や宇宙ごみ(スペースデブリ)の衝突です。
隕石や宇宙ごみの衝突は、ある程度以上の大きさであれば予測が可能で、その場合は地上の管制官からの事前の指示によりISSの軌道をずらして衝突を回避します。しかし、小さな隕石や宇宙ごみは数が多いこともあって衝突予測は難しいのです。

空気もれは即、生死に直結する
もちろん、ISSも宇宙船も多少の衝撃には耐えられる設計になっているものの、穴が空いてしまう可能性はゼロではありません。
地上と違って宇宙空間には空気がありませんから、空気もれは生死に関わります。また、ISS内は地上と同じ1気圧に保たれていますが、空気がもれると気圧も下がります。急な減圧は呼吸困難や意識障害などを引き起こすため、非常に危険です。そこでISSには、船内の圧力が下がると警報が出るシステムが搭載されています。電子気圧計でつねにコンピューターがモニターしているのです。減圧を知らせる警報が鳴ると、クルーはすべての作業を中断し、事前に決められている場所に集まります。そして、各自が持っている気圧計やISSの制御コンピューターなどを使い、空気もれが本当に発生しているのかを調べます。
空気もれが事実だと判明したら、次にやるべきは、空気があとどれくらいもつのかの計算です。基本的にコンピューターで行いますが、私たち宇宙飛行士は、コンピューターが使えない場合に備えてアナログで計算する訓練も受けています。ISSには壁掛け時計のような昔ながらの気圧計がいくつも備えられているのですが、面白いことに緊急時には搭載コンピューターの数値より、このアナログ式の気圧計のほうが信頼されているのです。
その後の対応は、空気がどれくらいもつのかによって異なります。少し長くなってしまうので、次の項目でくわしく説明しますね。

