口の発達に合わせて食材の固さや形状を変えていく

工藤
二つ目に確認すべきことは、お子さんの「お口の発達」です。離乳食をスタートする初期の段階では、口を閉じて飲み込むことができるかどうか。初期に離乳食をあげる時は、下からスプーンを持ってきて、下唇の上に置いて、お子さんが上唇をしっかり閉じたらスプーンを引き抜く。これが大事です。よく、とにかく食べさせたくて、口の中までスプーンを入れて、上あごに食べ物をこすりつけちゃうことがあるんですけど、それは咀嚼をする訓練になりません。唇で取り込んで、下で奥に送り込んで飲み込む。初期はこの練習をしているということを意識しましょう。
山口
少しずつ口が発達してきたら、食べ方が変わってくるんですか?
工藤
そうですね。「あむっ」とするだけだった子が、唇を左右対称に「ムニムニ」と動かすようになったら、離乳食中期に進む合図です。そして、食べ物を歯茎ですりつぶすように、頬が左右非対称に「モグモグ」とふくらませる様子が見られたら、後期食にステップアップしましょう。
初期、中期、後期では食材も変わっていきますが、固さや形状といった「性状」もステップアップしていきます。これが、三つ目に確認すべき「離乳食の性状」です。例えば、後期で1歳超えたからといって、まだ歯が生えていない子に固めの離乳食をあげてしまうと、食べづらくてイヤイヤしてしまうことがあるんです。そういう場合は、性状のステップアップはゆっくり進める必要があります。歯はすごく個人差があり、早い子だと4ヶ月くらいから生えてきます。
崎谷
うちの子はそうでした。9ヶ月でもう7本生えてます。
工藤
おお、早めのタイプですね。一方、遅い子だと1歳を過ぎて初めての歯が生えることもあります。
山口
子どもによってそんなに違うんですね!
工藤
そうなんです。だいたい1歳3ヶ月くらいまでに生えてくれば問題ないと考えてください。このように、お口の発達と離乳食の性状が合わない場合は子どもが嫌がるので、食べづらそうだと思ったら性状を確認しましょう。
あと、もう一つ付け加えるとしたら、食べさせ方ですね。スプーンで離乳食をあげる時に、顔の上方からあげてしまうことがあるのですが、あごは引いている状態が望ましいので、下からあげましょう。あごが上がっている状態で食べると、むせやすいんです。
で、むせちゃうと「なんか、ママ・パパがくれる食べ物、苦しいから嫌だな」という印象になってしまう。離乳食が嫌いになる原因になってしまうこともあるんですね。
山口
なるほど、子どもが離乳食を嫌がるのは、食べるのが嫌な子というだけでなく、食べさせ方などいろいろ原因があるかもしれないということなんですね。
工藤
そうなんです。だから、嫌がる時は「離乳食を食べない子なんだ」とか、ましてや「自分の料理の腕のせいだ」なんて思う前に、「環境」「お口の発達」「離乳食の性状」という物理的な三つのポイントを確認してほしいんです。
山口
あと、離乳食の性状についてうかがいたいのですが、離乳食の本って、「初期」「中期」「後期」の食材の切り方や加熱具合についてすごく細かく書いてありますよね。それって、どのくらい厳密に守る必要があるんでしょうか。多少粗かったり、逆に柔らかすぎたりすると、どういった問題があるんですか?
工藤
早くに固すぎるものをあげると、むせ込みの原因になってしまうというのはありますね。逆に、ずっと柔らかいペースト状のものばかり食べていると、口の発達が促されないという問題があります。食べ物を噛んで飲み込む練習にならないんです。あとは、ずっと初期の離乳食を食べていると、栄養が足りなくなると思います。初期の離乳食って薄いんですよ。
崎谷
最初に食べさせましょうと書いてある重湯や10倍がゆなんて、ほぼ水分ですもんね。
工藤
ちなみに、私ははじめから全粥(5倍がゆ)を食べさせていいと考えていますが、おっしゃるように初期食は食べやすいように薄めてあるんですよね。このまま後期の月齢に必要な栄養を取ろうとすると、ものすごくたくさん食べなければいけなくなります。それはあまり現実的ではないでしょう。
アレルギーの発症を防ぐために「よだれかぶれ」を治しておく

山口
性状のお話を聞いて思い出したのですが、離乳食のレシピ本を見て、いつからこんなに食材の種類や形、加熱具合を細かく分けて調理するようになったんだろう、と疑問に思いました。昔のお母さんたちもこんなふうにやっていたんですか?
工藤
やっていなかったと思います。おそらく、昔の日本では大人のごはんを取り分けて、少し細かくしてあげていたんじゃないでしょうか。もっと昔は、大人が一度噛み砕いたものをあげていたんじゃないかと。虫歯の予防的にそれは推奨できないですけどね。でも、そんな感じで、「離乳食」として、赤ちゃんのごはんを別で作ることはしていなかったと思います。今でも、先進国以外では、大人のごはんを取り分けてちょっとつぶしてあげる、という国や地域もありますよ。
崎谷
アレルギーチェックも、食材のリストがズラッとあって、それぞれ少しずつ食べさせてみるのが大変でした。特に卵。かた茹でにしてから卵黄の中央を耳かき1杯分を1日目にあげて、2日目は耳かき2杯分と毎日少しずつ増やして食べさせて、最終的に全卵食べさせる…って、見た時は「これを本当にやるの?」と。
工藤
大変ですよね。先日、「卵黄を0.1g食べさせてみて、次は0.2gにしようと考えている」と言っていたお母さんがいました。ここまで厳密にやろうとする方もいれば、「いきなり卵一個あげちゃいました」みたいな方もいて、人それぞれだなと思います。0.01g単位で厳密に量る必要はないですが、いきなり全卵あげるのはちょっと冒険しすぎなので(笑)、卵黄から卵白へ少しずつ増やして進めるというステップは踏んでほしいですね。
山口
アレルギーの場合、どのような反応が出るんですか?
工藤
最初はお口のまわりが赤くなることが多いですね。その次は体に蕁麻疹が出る、人によっては嘔吐するといった症状が出ます。そして口周りと体の蕁麻疹は、すぐに消えてしまうことが多いんですよ。受診された時に消えていると、こちらとしては診断しようがない。なので、湿疹が出たら写真を撮っておいてください。それを見せて受診していただけると助かります。
受診時にもまだ強く蕁麻疹が出ている、かなり嘔吐した、といった場合はまずアレルギー症状に対する治療を行います。
山口
例えばグルテンアレルギーで重度な場合、ちょっと食べただけでアナフィラキシーショックが起こったりしますよね。子どもがグルテンアレルギーと知らずにうどんを1センチ食べさせちゃって、死の危険にさらしてしまう、なんていうことはないんですか。
工藤
ないとは言いませんが、極めて稀です。アレルギーであっても、アナフィラキシーショックまで出ることは、本当にごくごくわずかな例しかありませんし、「初めて、ごく少量を食べた時のアナフィラキシーショック」はまずありません。なので、基本は心配せずに、食べる食材の種類を増やしていってほしいと思います。頻度としては道路を歩いていて交通事故に遭う頻度より少ないくらいです。交通事故が怖くて外を歩けなくなると、外に出て得られるたくさんの楽しいことができなくなるのはもったいないですよね。
山口
卵や乳製品など、アレルギーの出やすい食材って、本によって、早めにあげたほうがいいと書いてあることもあれば、早すぎるとよくないと書いてあることもあって、どちらが正しいんだろうと思っていたのですが…。
工藤
基本は「早めにあげましょう」です。早めに食べ始めることで、将来のアレルギーのリスクを減らせるということが、最近の調査研究でほぼ確実になってきたんです。20年くらい前は、「ゆっくり始めましょう」が主流だったので、本によってはそう書いてあるものもあるかもしれませんが、小児科医としては早めに食べさせてほしいです。
ただ、食べ始めるのは、お顔のよだれかぶれを治してからにしましょう。というのも、アレルギーの原因物質であるアレルゲンが皮膚から入ると、体がアレルギー反応を起こして、アレルギーを発症してしまうんです。皮膚の疾患があるとアレルギー発症のリスクが高まります。
山口
口からでなく、皮膚から入ると、アレルギーが出やすくなるんですね。
工藤
そうなんです。そして、傷や炎症があるとアレルゲンが入りやすくなる。小児科医としては湿疹をまずしっかり治してから離乳食を始めたほうがいいと考えています。お薬を塗ることに抵抗感のある親御さんもいらっしゃるんですけど、ステロイドのお薬を使ってしっかり治して、顔がピカピカの状態で、離乳食を始めましょう。
