このあいだ、趣味のJ-STAGE巡りをしていたとき、このような嘆きの声を見つけました。
電子レンジの加熱原理を説明する際に、振動する水の分子同士の摩擦熱を考える場合があるが、真実に反している上、熱の分子運動論や摩擦現象のミクロなイメージの涵養を妨げる。いくらかの調査の結果、摩擦熱の説明はかなり流布していて、生徒もテレビなどを通じて聞き、更に学校教育までも荷担していることが判明した。(中村聡「電子レンジの加熱原理に関する誤解」物理教育 54巻 2号 書誌(2006)より引用)
試しに「電子レンジ 温める仕組み」でググってみると、確かにそんな説明がズラッと並びました。Google検索結果のAIによる概要も同じでした。
では、実際どんな仕組みなんだろうと気になったので、調べてみました。
電子レンジの定義
電子レンジは物を熱する時に「マイクロ波」という電磁波を利用しています。電波法施行規則 第46条の7 第1項によれば、2450メガヘルツ(正確には占有周波数帯幅に含まれる周波数が2400~2500メガヘルツ)の電磁波で食品を加熱する加熱機器が電子レンジとして定義されます。
ヘルツ: 1秒間に電波が何回振動しているかを表す単位。表記はHz。2450メガヘルツは秒間24.5億回、電波が振動するという意味。
電子レンジは、この周波数帯の電磁波(マイクロ波)を使った「誘電加熱」という方法で食品を加熱します。
電気を使った加熱法には、誘導加熱や誘電加熱、赤外線加熱など、さまざまな種類があります。このうち誘電加熱は、マイクロ波で食品中の分子(水分子)を動かして、食品を内側から温める方法です。
極性分子と無極性分子
それでは、水分子はいったいどのように動くのでしょうか。
その前に、事前知識として、極性分子と無極性分子についてまとめておきます。
学生時代の理科や化学で、原子は陽子と電子を持っていると習ったのを覚えているでしょうか。陽子はプラスの電荷を、電子はマイナスの電荷を帯びています。電荷は磁石のS極とN極のようなものだと思ってください。
たとえば、水素原子(H)は、陽子と電子を1個ずつ持っています。これが塩素原子(Cl)とくっつくと、塩素原子の電子を引っ張る力のせいで、水素原子の電子は、塩素原子の電子の足りない箇所に吸い寄せられて、2つの原子は結合します。分子中では、原子が互いの電子を引っ張り合い、引っ張る力の強いほうに電子が吸い寄せられます。
もう少し詳しく書くと、まず原子は原子核を中心に電子殻という層を持っています。これは電子が動く軌道のようなもので、このうちいちばん外側の電子殻を最外殻と呼び、この最外殻に存在する電子を最外殻電子と言います。
原子は安定した状態を保つために、この最外殻電子の空いた箇所を埋めようとします。具体的には、電子は2つずつで対になっており、1つだけで孤立している電子がある場合、原子はもう1つ電子を手に入れて、安定した状態になろうとします。
塩素原子は最外殻電子を7つ持ちますが、これは2つの電子のペアが3つと、孤立した電子が1つあるため、不安定な状態です。そのため、最外殻電子が1つの水素原子と7つの塩素原子がくっつくと、お互いの空いた箇所がちょうど埋められて安定します。
このとき、1つの電子のペアを水素原子と塩素原子が共有することになります。これを共有電子対といいます。
このとき電子は、電子を引っ張る力が強い原子に引き寄せられます。この引っ張る力を電気陰性度といいます。水素原子と塩素原子では、塩素原子のほうが電気陰性度が大きいので、この共有電子対は塩素原子のほうに引き寄せられます。
これによって、水素原子はマイナスの電荷を持つ電子を失い、陽子の持つプラスの電荷を帯びます(H+)。この電荷の偏りを「極性」といいます。
この現象を水分子で考えてみましょう。
水分子は、水素原子2つと酸素原子1つ(陽子と電子を8個ずつ持つ)がくっついた分子です。電子を引っ張る力=電気陰性度は酸素原子のほうが大きいので、水分子の中では、水素原子はプラスの電荷を帯び、酸素原子はマイナスの電荷を帯びます。
なお、原子の安定においては、電子が2つずつ対になっている性質より、最外殻が閉殻(電子の空席がない状態)のほうが重要です。たとえば、電子の空席が対角線上にあれば、空席はあるものの多少は安定しますが、最外殻が閉殻であることで、より安定します。
このとき、水分子は極性分子というものになります。
分子は結合の仕方によって極性分子と無極性分子に分かれます。
水分子を作るとき、水素原子は酸素原子に斜めに結合します。このとき、正の電荷と負の電荷、それぞれの原子の電荷の重心を考えます。電荷の重心は、それぞれの原子の重心位置と一致します。つまり、負の電荷の重心は酸素原子の中心、正の電荷の重心は水素原子同士を結んだ直線上の中心となります。電荷の重心位置がずれて、プラスマイナスが打ち消し合わず、分子中にプラスとマイナスの部分が生まれます。
こんな感じで、水素原子側がプラス、酸素原子側がマイナスになります。
一方、無極性分子とは、電荷の重心がずれない=プラスとマイナスが打ち消し合う形で結合する分子です。二酸化炭素(CO2)の分子構造を見てみましょう。
CO2は、炭素原子と酸素原子が一直線上に結合します。そのため、電荷の重心が一致するため、水分子のような電荷の偏り(極性)が存在しません。

