電磁波を当てたときの水分子の動き
それでは、この水分子に電磁波(マイクロ波)を当てると、どうなるのでしょうか?
その前に、そもそも電磁波とは何かを見ておきましょう。電磁波とは、名前の通り「電場」と「磁場」を発生させる電波です。なお、電場は「電界」、磁場は「磁界」とも呼びます(本記事中では電場、磁場と表現します)。
撒いた砂鉄の中に棒磁石を置いた時、S極からN極へ弧を描く磁力線が現れますよね。あれが磁場です。電場はあの電気版だと思ってください。磁場でS極とN極にあたるものが、電場ではプラスとマイナス、磁力線の方向にあたるのが電場の方向です。
誘電分極とは
食品中の水分子は、一様に同じほうを向いているわけではありません。すべてバラバラの方向を向いています。ですが、食品に電磁波を当てて水分子が電場の中に置かれると、場の電流の流れとは逆を向こうとします。
左が電場のない状態の食品中の水分子、右が電磁波を当てられて電場の中に置かれた食品中の水分子です。水分子は、電場の矢印方向に自身のプラス側を、電場の矢印の反対側に自身のマイナス側を向けるように回転します。これによって、食品全体が一定の極性を持ちます。この一定の極性を「誘電分極」といいます。
この変化は電場をかけるのと同時に発生するのではなく、少し遅れて起こります。よって、間を置かずに次々と違う電場を食品にかけると、水分子たち(正確には誘電分極)はやがて、電場の変化についていけなくなる=向きを変え切れなくなります。
電場の変化についていこうと向きを変えはじめたものの、すぐに次の電場がやってきて違う動きを要求され、それまでの動きにブレーキがかかる、そんなイメージですね。このブレーキがかかる時に、方向を変えるために使われていたエネルギーが散逸して別のエネルギーになります。これが熱の正体です。この熱を利用して食品を温めるのが電子レンジです。
ちなみに、電子レンジにマイクロ波が使われるのは、加熱に適したタイミングで電場が変化する波長を持っているからです。
なお、熱となるのは、なにも分子の向き変えによって発散されるエネルギーだけではありません。どのような方法でも原子・分子の乱雑な運動が起きれば、その運動のエネルギーそれ自体が熱となります。
ただ、よく目にする「分子が振動して摩擦熱が起こる」といった類いの振動は起こりません。上に書いた“乱雑な運動”の中には振動も含まれますが、これは分子の振動ではなく、分子中の原子の振動です。たとえば、先の二酸化炭素の結合イラストを例とすると、この結合が直線の状態からズレるパタパタ羽ばたくような運動や、分子の長さが伸び縮みする運動などです。
分子自体が振動するためには、分子が周りから固定される力がないと実現できないため、固体における熱運動でないと実現できません。
というわけで、電子レンジは「マイクロ波で水分子を振動させ、分子同士がぶつかり合って発生した摩擦熱でものを温める」のではないことがわかりました。いつも何気なく使っている電子レンジの裏にこんな仕組みがあったとは驚きです。未知の世界を知るのは楽しいですね。

