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「宇宙版終活」は何をする? 野口聡一が語る、ISSを去る準備と地球への帰還のリアル|野口聡一

「宇宙版終活」は何をする? 野口聡一が語る、ISSを去る準備と地球への帰還のリアル|野口聡一

宇宙版終活の本質は「次の人のため」

さきほどお伝えした話とちょっと矛盾するようですが、原状回復するのと同じくらい大事なのが、生活環境の整備に全力を尽くすことです。終活の真っ只中だったとしても、たとえ明日帰るとしても、自分たちにとって環境がよくなることであれば、これからここで暮らす人たちのためにも、きちんとやるという姿勢がすごく大切です。仮に空調設備の調子が悪ければ、自分はもう明日地球に帰るとわかっていても、その日じゅうに残業してでも修理しちゃいましょう。たとえ自分はもう使うことがないとしても、次にやってくる新人たちはきっとあなたのおかげで快適な生活のスタートを切ることができるでしょう。

意外に忘れがちなのは、使用していたパソコン、タブレットから自分の「痕跡」を抹消すること。以前、お伝えしたようにISSには私物のパソコンや携帯は持ち込めないというルールがあるので、デジタル機器はすべて共用備品になります。ですから、交代の宇宙飛行士に引き継ぐ前にファイルを削除して完全にフォーマット(初期化)する必要があるのです。最近は地上でも「デジタル遺品」といって故人の残したメールやファイルの管理をどうするかが問題になっていますが、ISSでは一定期間ごとにこの「デジタル遺品」の処理を行っているということになります。もちろん必要なファイルや自分が作成した文書、デジタル写真は事前にバックアップして地上に伝送しておけば、地球に帰還したあとにNASAから返還してもらえます。

さて、公的なサイン以外のすべての痕跡を消し、個室を原状回復したら、終活は無事完了。ISS出立までの数日間、帰還するクルーの多くは個室ではなく、通路などで寝起きします。せっかくきれいにした個室を汚したくないからです。ISSの通路に寝泊まりする、いわば「野宿」状態のクルーが現れると、帰還組も居残り組も、別れの日が迫っているのを実感して少々センチメンタルになります。

ISSを離れてついに地球へ! 帰還当日は激動の1日

いよいよ帰還当日です。数日間の野宿を終え、帰還カプセルにすべての荷物を運びこんだら、ISSでの最後の食事をすませます。その後、帰還用の下着をつけて(もちろんおむつも)船内与圧服に着替えます。

居残り組とはここでお別れです。地上での再会を約束して宇宙船へ乗り込み、ISSと帰還カプセルをつなげていたハッチを閉じます。宇宙での生活もとうとう終わり。名残惜しさと、地球にいる家族や友人たちにようやく会えるうれしさとで心はいっぱいです。

といっても、すぐに出発できるわけではありません。ハッチを閉じたあとも、地上と交信しながら、宇宙船内の気圧やシステムをチェックしなければならないからです。所要時間はおよそ2時間。すべて問題がないと判断されたら、宇宙船はISSからゆっくりと分離し、高度を少しずつ下げます。

打ち上げ時には、船内与圧服から船内服にいったん着替えましたが、帰還時は宇宙船に滞在する時間が短いため、与圧服のままです。分離から約3時間後、エンジンを逆噴射して軌道から離脱し、地球への降下を開始。なんと1時間弱で地上に到着します。つまりISSのハッチを閉じてから地上到着まで約6時間ほどということになりますね。もちろん、緊急避難や医療上の事情がある場合はもっと短い時間で帰還することも可能です。

なお、宇宙船に乗っていると、徐々に地球の重力を感じるようになります。空中に浮かんでいたほこりがさーっと床に落ちていくのです。ついに、地球に〝帰還〟するんだという実感がわく瞬間でもあります。クルードラゴン宇宙船のデジタル計器パネルには重力計が表示されているので、刻々と変わる重力がリアルタイムでわかりますが、「なんだかすごーく指が重いなー、もう地上かな」と思って重力計を見たら、まだわずか0・1G(地上のたった10分の1の重力!)だったりします。半年間無重力で過ごしたからだには、文字どおり「ヘヴィー」な体験です……。

配信元: 幻冬舎plus

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