脳トレ四択クイズ | Merkystyle
美味い! 楽しい! 体にいい! 頭にも効く! 生命科学者、定年後に畑にハマる|仲野徹

美味い! 楽しい! 体にいい! 頭にも効く! 生命科学者、定年後に畑にハマる|仲野徹

定年後は日常的に楽しめることを持ちなさい

野菜が好きでないのに、なぜ菜園を始めたか? 長い間、医学部で基礎生物学の研究に従事してきた。ちょっと口はばったいけど、そこそこの業績をあげ、多くはないけれど NatureやらScienceというトップジャーナルにも論文を出せたし、自称「超二流研究者」といったところである。

だいたい、それくらいの研究者になると、定年を迎えても、なんとかして研究を続けたいとか、どこかで教え続けたいとか、勤めていた大学のお役にたちたいと希望される先生が多数派だ。しかし、私は違う。そのようなご立派な考えはまったく持ち合わせておらず、定年になればキッパリと引退すると若い頃から決めていた。

定年後の暮らしについての本を読むと、なんでもいいから、日常的にできることを持ちなさいと書いてある。読書や旅行は好きだけれど、ずっと本を読んでいるだけではさすがに退屈だろうし、旅行にばかり出向くわけにもいかない。英文学者・伊藤礼先生の『ダダダダ菜園記 明るい都市農業』(ちくま文庫)が頭に浮かんだ。伊藤礼先生とは面識もなにもないが、師匠なのである。

古希を越えてから自転車生活を謳歌された『こぐこぐ自転車』(平凡社ライブラリー)に刺激され、50歳を越えてから自転車通勤を始めるというじつに素晴らしい体験をさせてもらった。それ以来、勝手に師匠と崇めてきた。その師匠が自転車に次いで心から楽しまれたのが家庭菜園であった。親炙(しんしゃ)する内田樹先生の『先生はえらい』(ちくまプリマー新書)によると、面識があろうがなかろうが、こちらが師匠だと思えばその人が師匠だ。そして、師匠の真似をしたくなるのは自然の成り行きである。これでいいのだ。

だいたい「菜産」っちゅうような言葉なんかないやろ、というご意見もありましょう。はい、そうです。でも、「米産」という言葉はちゃんと広辞苑に載っていて「(1) 米の生産。(2)米国産。アメリカ産。」とある。(1)の意味から「菜産」を「野菜の生産」とするのは、さして無理はあるまい。

とはいえ『知的菜産の技術』、誰がどう見ても、あの梅棹忠夫の『知的生産の技術』(岩波新書)のもじり、というかパクリではないか。はい、もちろんそうです。でも、どうしてもこのタイトルを使ってみたいのである。

高校時代に『知的生産の技術』にどっぷりはまっていた。10年ほど前、岩波新書から『エピジェネティクス 新しい生命像をえがく』を上梓した。その時、担当の編集者さんに、いかに梅棹忠夫ファンであったかという話をしていた。そうしたら、なんと、なんとなんと、岩波新書創刊80年「はじめての岩波新書」記念フェアの際、岩波新書のクラシックスの1冊である『知的生産の技術』の帯に、「私にとって梅棹忠夫はアイドルのような人だ」というコメントを使ってもらえた。これは密かな、ではなくて、声を大にして言いたい自慢である。

誠に僭越にして勝手なことであるが、『知的菜産の技術』というタイトルは、私から梅棹忠夫へのオマージュなのである。まぁ、そんなオマージュなんかいらんと、草葉の陰で思ってはるかもしらんけど。

かような事情でスタートする連載であります。たぶん20回くらいで、前半は総論――菜園作りや菜産全般にあてはまること――、後半は各論――キュウリとかジャガイモとか、それぞれの作物について――、どんな経験からなにを学び得たか。そして、それが、知的作業としていかなる普遍性を有するものなのか、について書いていく所存でございます。

菜園をやってる人や始めたい人にはもちろん、それ以外の人にとってこそ、おもろくて学ぶことが多い内容になるはずです。乞うご期待!

菜産は、すべて知的である

ここまでが、『知的菜産の技術』というタイトルの下、幻冬舎plusで開始したウェブ連載第1回の内容である。なんとなく「知的菜産の技術宣言」、みたいな感じはしませんかね。そんなええもんとちゃうか……。

単行本にするため、1年半ぶりに読み返した。おもろいやん! こういうことを書くから、自己肯定感が高いと言われるのだが、内容をすっかり忘れていた自分の文章を読むと、本当に面白く感じてしまうのだから仕方がない。なによりも、気の合うのがよろし。しかし、思い返してみると、第1回を書いたころは、はたして20回の連載をやりきれるかどうか、けっこう不安だった。自己肯定感が高いくせに、不安感は人一倍強い。

この本、元はといえば、SNSで何気なく、「『知的菜産の技術』というタイトルで書いてみたいんですけど、誰かのってくださいませんかね」とか書いたのがきっかけだった。それを見た幻冬舎の小木田順子さんが手を挙げてくださって、渡りに船とお願いした。

月に2回で、20回のウェブ連載にすること。前半を総論、後半を各論にすること。総論は野菜作りについてほぼ時系列で書き、各論はそれぞれの野菜について書くこと。ざっくりとこれだけを決めた。だけど、単に「知的菜産」という言葉がふと頭に浮かび、これってかっこええんちゃうかと思っただけで、内容の詳細は何も考えていなかった。どないしますのん。

知らなかったのだが、小木田さんは厳しい編集者であるという噂が耳に入ってくる。何を書いてもいい毎週1000字の連載エッセイは受け持ったことがあったが、「知的菜産」のようにテーマ縛りがあって月2回5000字程度というのは経験がない。ひょっとしたら、連載打ち切りになったりせんだろうかと怯えながらのスタートだった。

しかし、案ずるより産むが易し。さくさくと連載は進み、ありがたいことに小木田さんにはこの本の出版まで伴走いただけた。そこそこのビューイングをいただけたのは、私の能力が高かったとかではなくて、やはり、家庭菜園が知的なものであり、読者の方の興味を引いたからだと考えている。そう、菜産は、すべて知的なのである。

「え~っ、そんなこと言うけどホンマかいな」と訝(いぶか)られる向きもございましょう。でも、騙されたと思ってでもいいから読み進めてみてください。きっと、「なるほど菜産って知的なんや」と楽しんでいただけるはずですから。
 

配信元: 幻冬舎plus

提供元

プロフィール画像

幻冬舎plus

自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン。作家・著名人が執筆するコラム連載、インタビュー、対談を毎日無料公開中! さまざまな生き方、価値観を少しでも多く伝えることで、それぞれの“自分サイズ”を考え、見つける助けになることを目指しています。併設のストアでは幻冬舎の電子書籍がすぐに立ち読み・購入できます。ここでしか買えないサイン本やグッズ、イベントチケットも。