アート・美術は自由なもの。画家が好きなものを描いて良い。
現代では当たり前の感覚ですが、そうでなかった時代があります。「画家は何を描くべきか」が固まっていた時期は長く、300〜400年近く続いたといっても過言ではありません。
展示風景
つまり、現代の感覚だと素晴らしく見える絵でも、当時の評価はそれほど…という作品がありました。その逆もあるでしょう。
『西洋絵画400年の旅—珠玉の東京富士美術館コレクション』では、ルネサンスから20世紀の西洋絵画を80点以上展示。約400年にわたる長い時間のなかで、絵画にどんな変化があったのかを探ります。
展示風景
そこにあるのは、高尚さを突き詰めた巨匠たちの戦いや、新領域を切り開いた画家の挑戦など、作品に刻まれる「生きた美術史」です。21世紀を生きるあなたは絵画にどんな“ 評価 ”を下すのか、ぜひご自身で展覧会を味わってみてください。
見どころ①「高尚さ」が求められ、ランク付けされた絵画
ヘラルト・デ・ライレッセ《天使たちを迎えるアブラハム》17世紀後半 油彩・カンヴァス
ルネサンスから19世紀前半まで、絵画の価値は「ジャンル」によってランク付けされていました。最も格が高いのは歴史画で、肖像画、風俗画、風景画、静物画と続きます。それぞれのキーワードと「描かれたもの」はこちら。
歴史画:神話や聖書の物語
肖像画:特定の個人
風俗画:日常生活や祭り
風景画:自然や都市の風景
静物画:静止した自然物や人工物
この序列にはキリスト教的価値観やルネサンスの人間中心主義が関係しています。また、歴史画は描くために知識や教養が必要という点からも「高尚」とされました。
ノエル=ニコラ・コワペル《ヴィーナスの誕生》1732年頃 油彩・カンヴァス
本展ではジャンルごとに絵画が展示され、各ジャンルで評価を得ていた作品の傾向がまるっとわかる構成になっています。そして展示全体を眺めると、やはり歴史画は圧巻と言わざるを得ない…。
写真のようなリアリティがあり、まさに目の前で物事が進んでいるかのような臨場感があるオールドマスターの歴史画たち。脇役の人物や背景の描き込みに至るまで手を抜かずに描かれ、1枚の絵で前後のストーリーまで伝え切ろうと全力を尽くした様子がうかがえます。
展示風景
「絵画のヒエラルキー」について、私は「何が描かれたかで順位をつけるなんておかしいのでは?」と思っていたのですが、本展を通して考え方が変わりました。歴史画にはあまりにも卓越した技能が画面の隅々にまで注ぎ込まれすぎており、おのずと特別視してしまいます。
かといって他のジャンルが下位かというと、そんなことはありません。画家たちは対象と真摯に向き合い、「描くべき部分」「描きどころ」を見出して表現しています。料理に例えると、歴史画はフルコース、ほかのジャンルはアラカルトと言えるでしょうか。どっちも美味しい。
ジャック=ルイ・ダヴィッドの工房《サン=ベルナール峠を越えるボナパルト》 1805年 油彩・カンヴァス
肖像画では、ジャック=ルイ・ダヴィッドの工房《サン=ベルナール峠を越えるボナパルト》をはじめ、マリー・アントワネットに重用されたヴィジェ=ルブランなど大家の作品が展示されます。
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また、ロイスダールやクロード・ロラン、カナレットによる風景画など、教科書に登場する画家の名前が目白押し。いずれも東京都八王子市にある東京富士美術館のコレクションであり、同館の底力にも震える内容です。
見どころ②「何を描くべきか」から自由になった絵画
展示風景
伝統的な価値観が揺らいだのが、19世紀。産業革命や市民革命を経て、感情や個性を重視する新たな美の価値観が生まれ、美術は独創性を求めるようになりました。
クロード・モネ《睡蓮》1908年 油彩・カンヴァス
こうした流れで登場したのが、モネやルノワールを筆頭とする印象派の画家たちです。彼らはあえて筆のあとを残した描き方で、光のあふれる明るい画面を作り上げました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《赤い服の女》1892年頃 油彩・カンヴァス
さらに、中産階級の台頭によって彼らが親しみやすい風俗画や風景画の需要が高まり、歴史画の優位性も失われていきました。こうして絵画のヒエラルキーは解消。画家の内面や考えを強く表す前衛的な絵画も生まれます。
ルネ・マグリット《観念》1966年 油彩・カンヴァス
本展では19世紀以前の絵画も以後の絵画も展示されているので、ぜひ直に見比べてみましょう。写真のようなリアリティを重視する絵画と印象派などの絵画の違いは、ぱっと見でもわかると思います。
西洋絵画400年の旅―珠玉の東京富士美術館コレクション キービジュアル
ここであらためてキービジュアルを見ると、この2枚の絵画が選ばれた理由がわかるのではないでしょうか。オールドマスターを代表する作品と、新時代を象徴する作品が対になっています。
