凍結卵子を「融解」する時にダメージはないの? 医師が詳しく解説

凍結卵子を「融解」する時にダメージはないの? 医師が詳しく解説

卵子凍結を成功へ導くためには、患者サイドも知っておくべき基礎知識がたくさんあります。そこで、卵子凍結から妊娠を成功につなげるためにはどうしたらよいか、花みずきウィメンズクリニック吉祥寺の矢野先生にメディカルドック編集部が聞きました。

矢野 直美

監修医師:
矢野 直美(花みずきウィメンズクリニック吉祥寺)

1991年東京大学医学部医学科卒業、1998年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学医学部附属病院、公立昭和病院、武蔵野赤十字病院などにて産婦人科診療、不妊症治療に従事。池下レディースクリニック広小路副院長を経て、2009年、現クリニックの前身である池下レディースクリニック吉祥寺院長に就任。2022年7月より花みずきウィメンズクリニック吉祥寺にクリニック名を改称。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医。

未授精卵子の「融解」でダメージは起きるのか?

未授精卵子の「融解」でダメージは起きるのか?

編集部

未授精卵子の「融解」とは、具体的にどのようなプロセスなのでしょうか?

矢野先生

「融解」とは、凍結保存していた卵子を常温に戻し、受精や培養が可能な状態に戻す工程を意味します。急激な温度変化をコントロールしながらおこなう繊細な作業で、正確な技術が必要とされます。

編集部

この融解の際に、卵子にダメージが生じる可能性はあるのでしょうか?

矢野先生

はい。融解時には細胞内の氷晶形成や浸透圧の変化により、卵子の構造が損なわれることがあります。特に未授精卵子は膜がデリケートなため、受精率や発育率が下がるリスクがあります。

編集部

どのようなダメージが実際に確認されているのでしょうか?

矢野先生

卵子の変性、細胞膜の破損、細胞質の変質、染色体の異常などが報告されており、慎重な扱いが求められます。

編集部

未授精卵子と受精卵では凍結・融解に対する強さに違いがありますか?

矢野先生

一般的に受精卵(胚)の方が、凍結・融解に対する耐性が高いとされています。未授精卵子は構造が不安定であり、特に染色体や紡錘体が損傷を受けやすく、技術的な難しさが伴います。

凍結卵子を使ってもうまくいかないケース

凍結卵子を使ってもうまくいかないケース

編集部

未授精卵子の凍結で、トラブルなどは起こりうるのでしょうか?

矢野先生

理論的には起こり得ますが、実際にそのようなトラブルはほとんどないと考えてよいと思います。かつてアメリカのカリフォルニア州で、凍結卵子の保存タンクが故障する事故が起こり、賠償問題になったことがありますが、そうしたケースは非常に稀。日本ではそのような報告は聞かれていません。

編集部

医療機器の誤操作や管理ミスなどで問題が起きることは、ほとんどないのですね。

矢野先生

もちろん卵子凍結に限らず、医療の領域で事故が起きる確率はゼロではありません。しかし、必要以上に心配することはないと考えています。

編集部

凍結後に長期間保管された場合には、トラブルが起きることもあるのでしょうか?

矢野先生

「長期保存された卵子は、融解後の生存率が低下することがある」という報告はあります。保存状態が安定していても、年数の経過による影響がまったくないとは言えず、使用前の説明が重要になります。

編集部

医療機関の技術差によるトラブルもあるのでしょうか?

矢野先生

はい。凍結・融解の技術は施設ごとに経験や手法に差があり、成功率に影響します。施設選びは慎重におこなうべきです。

配信元: Medical DOC

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