誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
朝に触れ損ねた街、夢の皮膜をまとう歩道橋
白みかけた光は繊細すぎて、スクランブル交差点の隅々までには少し足りない
あの頃の君が好きだったメロディが駅から流れ込むと、不在はひとつの気品を帯びて立ち上がる
失われたものは、叫ばれることなく、むしろ静謐のなかでその存在を深めてゆき、交差する足音は、記憶の上を歩くように淡い
隣にあった気配の記憶は、空気の織り目に紛れ、触れればほどけてしまいそう
声も笑いも思い出の中に佇む君には、届きそうで届かなくて僕は、密かに涙を流すことを日常に蘇らせた
君の歌は嘆きを飾らない
空白の儚さをさりげなく差し出し、掌に留まる勇気だけを求めて
坂を駆け上がるにつれて、ガラスに映る像はひとつの幻影へと変わる
欠けているのは他者か、それとも僕の一部か、朝の光は残酷なほど冷徹に、すべての運命を同じ明度に還元してしまう
それでも、かつての温度だけは、完全には消えない
むしろ失われたからこそ、透明な輝きを帯びると信じたくて
ひとつの完成されない詩のように、街は何も知らぬ顔で動き出し、歌だけが不在に寄り添う繊細な術を知っているから
淡い光のなかで息をひとつ
戻らないものは、美しく遠ざかる
それでも歩みは続く
不在を抱くこと、それ自体がひとつの優雅さであるかのように
朝の街は、その曖昧な均衡を壊さず、ただ静かに受け入れてゆく

am8『君だけいない feat. Yuki Otake』(2026年、Alfa Beta Records)

