
「9273-86824258-7398」――“旅”とは何だろう。穏やかな旅もあれば、刺激的な旅もあり、ワクワク楽しい旅もあれば、辛く苦しいだけの旅もあるかもしれない。綿密に計画する旅、思い立って無計画に飛び出す旅もある。ただ、たとえどんな旅でも、これまで見たことがなかった“景色”に必ず出合える、同時に自分の“世界”も少しだけ広がる…ということだけは共通しているのではないだろうか。特に異国となれば、その見える景色と広がる世界のギャップはさらに大きくなるはずだ。
■1990年代の“今”が真空パックされた、ドラマを超えた“生きた旅”
作家・沢木耕太郎の小説を実写化した映画「春に散る」(2023年)の放送を記念し、特集「~旅と再生~ 沢木耕太郎の世界」が、日本映画専門チャンネルにて4月12日(日)昼4時よりスタートする。同特集で特に注目したい作品が、大沢たかおが若き日の沢木自身を演じたドラマ「劇的紀行 深夜特急」だ。今なお配信には出ていない貴重な作品であるこのドラマは、「これはドラマ!?…旅ドキュメンタリーでは?」と思うほど、ドキュメンタリーとドラマがあまりにナチュラルに融合されている。
「'96〜熱風アジア編〜」「'97〜西へ!ユーラシア編〜」「'98〜飛光よ!ヨーロッパ編〜」と全三部作で構成されていて、インターネットも携帯電話もそこまで普及していない1990年代、一枚の地図とバックパックだけを頼りに沢木(大沢)が世界を突き進む姿を描く。返還直前の香港の独特な雰囲気や、各国の治安や情勢を感じる街並み、歴史とロマンが溢れる遺跡など、当時の“今”が真空パックされている。2026年の今、このドラマでしか出合えない景色がそこにはあるのだ。
■疲労感や苛立ちすら愛おしい…五感を刺激する圧倒的な“没入感”
とにかく人も街も食べ物も空気感も全てがリアルで、本来は聴覚と視覚だけなのに、そこに嗅覚、触覚、味覚まで感じられるような五感への刺激がある。そして何より大沢が演じる沢木の等身大の青年の姿を見て、まるで一緒に旅をしているような感覚に陥るのだ。
例えば、良くも悪くも細かいことを気にしない大雑把さや、フレンドリーに話しかけてくれる距離感、親切に世話を焼いてくれる温かさ、ズケズケした物言いだが面白さが上回る陽気さ、時間にあまりにルーズな公共交通機関、日本人だと分かった瞬間に知っている日本語をちょっと得意げな顔で羅列してくる人たちと…日本では“ないない”が、海外では“あるある”なことがわんさかあるのだ。
“旅心”が刺激される…という言葉では表せないほど、とにかく没入感がすごい。実際に旅をしたときと同じくらいの感情が湧き上がってくる。それは高揚感や満足感だけでなく、疲労感やちょっとした苛立ち、心がほんのり温まるといったことも…観ているだけのこちらもなぜかそんなさまざまな感情が溢れ出し、まるでその国に実際に行って数日間過ごしたような錯覚を抱く。だからこそ、この「深夜特急」でしか摂取できない奇妙で幸福な“養分”があるのだ。
■サービスショットも…大沢たかおが放つ瑞々しい色気と逞しさ
そして何と言っても、当時20代後半の大沢の瑞々しいカッコ良さ。確実に見どころの一つだと言い切れる。ちなみに、シャワーを浴びている途中で呼び出されたり、半裸で部屋で寛いだりとさりげなく紛れ込んでいるサービスショットは拝みたくなるほどありがたいし、各国の美女たちに迫られてたじろぐ姿は、あまりの可愛らしさにニヤニヤしてしまう。大沢のファンにとって同ドラマは間違いなく宝箱と言えるだろう。
さらに、「まるで意味のないことをやりたかった」というぼんやりした理由で、友人からカンパを募ってスタートを切った当初半年予定のこの旅が、結果1年3カ月も続くのだが、日を重ねるごとに海外の文化に慣れていき、初々しくてたどたどしい姿が、ふてぶてしく強く逞しくなっていく様子もたまらない。見た目すら、色が白くてまだあどけない少年っぽさが残る青年から、ガッツリと日焼けした雄々しく少しくたびれた色気がある大人の男へと変わっていくのだから、やはり“ドラマ”とは思えない生感だ。
ちなみに冒頭の謎の数字の羅列は、そんな沢木が“ミッドナイトエクスプレス(深夜特急)に乗って”日本という壁の外へ飛び出し、世界を旅した末に辿り着いた答えである。日本を発つ前に友人たちとした約束を果たしたものである。その数字が何を意味するのかは、ぜひ放送で見届けてほしい。
旅が好きなあなたも、旅は面倒だと思うあなたも、一人旅は怖いというあなたも、海外に興味があるあなたも、はたまた旅に全く興味がないあなたも…どんな人が観ても楽しめる作品だと言い切れる。本当に本作でしか“得られないもの”があるのだ。だから、あなたもぜひ、沢木と一緒に旅をして、ピリオドの地、イギリス・ロンドンで彼がどんな電報を綴るのか、その言葉に何を感じるのかを見届けてほしい。あなたも一緒に「深夜特急」に飛び乗ってみてはいかがだろうか?
構成・文=戸塚安友奈

