エレベーター業界にて、納期の長期化が深刻化しています。
2022年、東京都交通局が都営大江戸線の落合南長崎駅のエレベーター工事を延期すると発表しました。ですが、こうした事例は珍しくありません。エレベーターの着工予定が1~2年先というケースは多く、特にタワーマンションのように大きな設備が必要な建物では、2023年時点で6年待ちといった例もあり、建設自体に影響が出てしまう恐れも考えられます。
いったい建設現場で何が起きているのでしょうか。
なぜエレベーターが設置できないのか
エレベーターの納期が長期化している原因には、業界を取り巻くさまざまな事情が影響していると考えられています。
人手不足
まず挙げられるのは、エレベーター業界だけでなく、建設業界全体で深刻な問題となっている人手不足です。有資格者が必要とされる業界の中で、若手入職者の減少や高齢化が急速に進んでいます。たとえば、厳密にはエレベーター関連業務の就業者数ではありませんが、一般社団法人日本建設業連合会が公開しているデータ(元データは総務省「労働力調査」)によれば、建設業就業者数、建設技能者ともに減少傾向にあるのが分かります。
さらに近年では、働き方改革などの影響で残業が厳しく規制され(2024年問題)、作業員一人あたりの作業量が減っているという事情もあります。もちろん残業規制自体は必要なことですが、その影響で、1つの工事にかける作業日数がこれまでよりも長くなる「待ち」の工事が増えているのも事実です。
資材不足
2~3年前から問題になっているコロナ禍をきっかけとした国内の半導体不足も、エレベーターの納期に大きな影響を与えています。徐々に改善されてはいるものの、まだ納品の遅延は発生している傾向にあります。加えて、昨今の円安や資材価格の高騰により、エレベーターの工事費水準も上がっています。もし見積もりの取り直しとなれば、それも納期に影響する可能性があります。
保守台数の増加
一般社団法人日本エレベーター協会の2024年度調査によると、国内のエレベーター設置数は近年減少傾向にあります。しかし、その一方で増加しているのが保守台数です。エレベーターの点検は建築基準法で義務づけられ、老朽化が進んだ場合はリニューアル工事を行うことで安全性が保たれています。
前述の通り、新設のコストが上がっていることから、利益率の高い保守の案件を優先して受注するメーカーも出てきているようです。保守の需要だけで人材も資材もいっぱいいっぱいとなり、新設の工事が後ろ倒しになっている事情が見えてきます。
どうしてタワマンのエレベーター工事は長く待たされる?
エレベーターは設置する建物の高さによって、サイズや速度などに規定が設けられています。
まず、31メートル以上の建物は、建築基準法(第34条)でエレベーター(非常用の昇降機)の設置が義務づけられています。そしてタワーマンションでは通常、機械室のある特注型のエレベーターを採用するのが一般的です。この機械室あり・特注型のエレベーターは、2023年時点で着手まで5〜6年待ちとなっている状態も珍しくないといわれています(機械室のないものでも4年待ち、小さいサイズの標準型でも1〜2年待ちというケースも珍しくないそうです)。
契約から着工までの期間が伸びることで、担当者の変更による伝達不足などのトラブルにつながる可能性もあります。人員不足でただでさえ一人の抱える仕事が多いうえに、プロジェクトの長期化が重なり、問題が起きやすい状況となっています。

