【法隆寺西院伽藍】想いや歴史が紡がれてきた美しき伽藍と名宝

上/五重塔の均整美。上層に向かい小さくなる屋根の重なりが美しい 左下/金堂に安置される釈迦三尊像。ほかにも13体の仏像が安置され、ほとんどが国宝指定(※) 右下/大宝蔵院に収められた百済観音像。自然光に照らされる気品ある立ち姿に思わず圧倒される(※)
※画像提供/JR東海
教科書や修学旅行で学生の頃から見てきたはずの「法隆寺」ですが、大人になって訪れるとその奥深さはまるで別物。1300年以上の歴史を重ねてきた世界最古の木造建築は、今もなお訪れる人々を静かに迎え入れてくれます。
金堂と並び立つ五重塔は、幾度もの地震や風雨に耐えてきた奇跡の建築であり、柱や屋根瓦1枚にまで人々の想いが込められている、古いだけではない“生き続けている建築”。飛鳥時代の建築から後世の修復に至るまで、時代を超えて大切に守られてきた痕跡を肌で感じることができます。屋根は上層へ行くほど小さくなり、安定感のある姿に思わず見入ってしまうほど。中心を貫く心柱は「東京スカイツリー」の耐震構造にも応用されたと聞き、古代の知恵の深さに驚かされるばかりです。
金堂に安置されるのは飛鳥時代の仏像を代表する釈迦三尊像。飛鳥彫刻の集大成とされており、アーモンド形の瞳とやわらかな口元は、堂内の静謐な空気と響き合い、参拝者に深い安心感をもたらしています。
さらに大宝蔵院に収められた国宝・百済観音像。対面すると、すらりと伸びる体躯や繊細な衣の襞に目を奪われます。自然光に照らされると、その姿は一層際立ち、気高さを増していくよう。西院伽藍は壮大な建築とともに、数々の名宝が集まり、時代を超えて信仰と技術をつないできた場であることを改めて実感しました。

上/直径2m超のヒノキから仕上げられた、調張りの柱 左下/金堂を見上げると角には獅子の彫刻があり、智慧を象徴する動物として軒を支える。ほかの支柱にも像や龍などの彫刻があるので探してみて 右下/柱に残る埋木の跡。修復を丁寧に繰り返してきた歴史を物語る
壮大な伽藍を形づくる西院には、細部にこそ大工の知恵と工夫が刻まれています。中門や金堂の柱をよく見ると、中央部がわずかにふくらんでおり、これを胴張り柱といいます。直径2mを超えるヒノキの巨木を芯抜きして4分割し、それぞれを円柱に仕上げたもので、ひび割れを防ぎつつ強度を高めるための技法です。紀元1000年以上を経てもなお建ち続ける力はこの工夫があればこそ。
加えて回廊の柱には、まるでブロックではめ込んだような、埋め木の跡があり、それは腐食や傷みを補修しながら大切に使い続けてきた証。代々の宮大工が試行錯誤を重ねてきた息づかいを感じます。こうした細部を見つめると、法隆寺が単なる古建築ではなく、人々の営みによって生かされ続けてきた“生きる遺産”だということを強く感じます。大きな佇まいだけでなく、ディテールに宿る物語もまた歴史の楽しみ方のひとつかも。
【法隆寺東院伽藍】夢殿に漂う凜とした清らかさと祈りの余韻

上/八角円堂「夢殿」はどこから観ても美しい。端正な均整美 左下/秘仏・救世観音像。一説では聖徳太子をモデルにしたと言われる慈悲の姿は必見。2025年は10月22日~11月22日で特別開扉される(※) 右下/鳳凰を象った吐水口。境内を満たす清らかな水音が心地いい
※画像提供/JR東海
「西院伽藍」から歩いて数分、木立の奥に見えて来る「東院伽藍」。中心に建つ八角円堂「夢殿」は、聖徳太子を供養するために建てられ、どの角度から観ても均整の取れた端正な佇まいが特徴的です。
春と秋には秘仏・救世観音像が特別公開され、多くの人々が祈りを捧げてきました。静寂に包まれる回廊を歩けば、自然と背筋が伸びる心地に。太子の足跡をたどるように、ここで過ごす時間は凛とした清らかさを感じさせてくれます。
法隆寺(ほうりゅうじ)
TEL.0745-75-2555
住所/奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺山内1-1
拝観時間/8:00~16:30(2/22~11/3は~17:00)
拝観料/2000円
アクセス/JR法隆寺駅から徒歩20分、法隆寺参道行きバスで約8分、法隆寺参道下車すぐ

