病院の8割が赤字 – 「余裕のない医療」からの脱却
鈴木会長は、現在の医療体制の最大の問題として「余裕のなさ」を挙げています。
「神奈川県では病院の7割から8割ぐらいが赤字です。診療所も3割ちょっとが厳しい状況。都会の方が人件費も土地代も高いから、みんな赤字になってしまうのです」
この余裕のない状況が、様々な問題を引き起こしているといいます。
「余裕がない中での機能分化は非常に難しい。みんな何でもいいから患者を増やして、9割以上ベッドを埋める、診療所だって今の1割増しの患者を集める。こんな状況では、うまくいかない」
具体的な例として、救急医療の現場を挙げました。
「三次救急(重症患者対応)の病院でも、赤字だから一次、二次の患者も何でも受け入れる。看護師さんは夜中に必要以上の患者さん対応に追われて、記録に追われて、その結果辞めていく人が増える。すると、また苦しくなって負のスパイラルになります」
DXによる医療の効率化がカギ
余裕を生み出す方法として、鈴木会長はDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用を提案しています。
「今、ベッドで寝ていると血圧や脈拍などが全部自動的に記録される機器があります。これが入っていれば看護師の負担は減る。しかし、現在の診療報酬制度では、そういう機器を導入しても人員配置基準は変わらないし、診療報酬も同じなのです」
つまり、“DXに投資しても経営的なメリットがない”という構造的な問題があるのです。
「DXを進めれば人員が少なくても同じ診療報酬がもらえる、という考え方になれば、産業としても進むし、看護師は患者さんのところに行ける時間が増える。でも今は、DXのお金は自分たちで用意して、入れたからといって人員を減らしてもいいということにはならない」
また、医療機関特有の税制上の問題も指摘されています。
「医療機関は仕入税額控除を受けられないのです。つまり、10億円の設備投資をしたら1億円の消費税を払うけど、それは戻ってこない。これも医療機関の経営を圧迫する要因の一つです」

