腹膜播種は、がん細胞がお腹の中(腹腔内)に散らばり、内臓を覆う膜(腹膜)に転移した状態です。病状が進行すると、つらい痛みやお腹のハリなどが生じ、日々の生活の質(QOL)に影響することがあります。
この記事では、腹膜播種の痛みを和らげるための具体的な治療法やご自宅での対処法、そして緩和ケアを詳しく解説します。

監修医師:
福田 滉仁(医師)
京都府立医科大学医学部医学科卒業。初期研修修了後、総合病院で呼吸器領域を中心に内科診療に従事し、呼吸器専門医および総合内科専門医を取得。さらに、胸部悪性腫瘍をはじめとする多様ながんの診療経験を積み、がん薬物療法専門医資格も取得している。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本呼吸器気管支鏡学会気管支鏡専門医。
腹膜播種の痛みとは

痛みは、腹膜播種によって引き起こされる主な症状です。痛みの性質や強さは、病状や進行度によって異なります。まずは、なぜ痛みが生じるのか、その仕組みと特徴を解説します。
腹膜播種で痛みが生じる理由
腹膜播種は、がん細胞が腹腔内に播種し(散らばり)、腹膜で増殖する状態を指します。腹膜にできた、がん細胞のかたまり(播種巣)が腹膜の炎症や腹水などの原因となり、痛みを引き起こします。
腹水による圧迫
がん細胞から産生される物質によって血管やリンパ管から水分が外に漏れ出すことで、腹腔内に水(腹水)が溜まります。その結果お腹が張って内臓が圧迫され、お腹のハリや腹痛を引き起こします。
腸閉塞(イレウス)
播種した病変が腸を圧迫したり、腸の動きを妨げたりして、食べ物や便が詰まることがあります。腹痛だけではなく、吐き気や嘔吐、発熱、食欲不振などをきたすことがあります。
臓器への浸潤
がんが進行し、播種巣が内臓や筋肉、神経にまで広がること(浸潤)で、痛みを感じることがあります。また、がんによって尿の排泄に必要な尿管や、胆汁の排泄に必要な胆道が狭くなった場合、腹痛だけでなく、発熱や黄疸などさまざまな症状をきたすことがあります。
腹膜播種の痛みの程度
痛みの種類は、発生している場所によって異なります。痛みの種類はチクチクするような軽い痛みや、ズキズキとうずくような鈍い痛み、お腹のハリによる痛み、締めつけられるような強い痛みなどさまざまです。
また、同じ部位の播種であっても痛みの強さには個人差があります。ときには動くことが難しいほどの痛みを感じることもあります。痛みを我慢せず、医師や看護師に相談し、適切な対応をとることが重要です。
腹膜播種の痛みを緩和する治療法

腹膜播種の痛みを和らげるアプローチは、大きく分けて2つあります。一つは痛みの根本原因である、がんそのものに対する治療、もう一つは痛みを取り除く対症療法です。これらは、がんの種類、患者さんの全身状態やがんの進行度、痛みの原因に応じて組み合わせて行います。
腹膜播種の原因となるがんの治療
がん細胞の増殖を抑えて播種巣が小さくなれば、痛みの根本的な軽減につながる可能性があります。治療の中心は全身化学療法であり、がんの種類や患者さんの状態によって適切な方法を選択します。
全身化学療法(抗がん剤治療)
胃がん、膵がん、大腸がん、卵巣がんなど、腹膜播種の原因となるさまざまながんに対する標準的な治療です。点滴や内服によって抗がん剤を投与し、全身に散らばったがん細胞の縮小を目指します。
腫瘍減量手術
手術によって、目に見える腹膜の播種巣を可能な限り切除する方法です。完全な切除が難しい場合でも、腫瘍の量を減らすことで化学療法の治療効果を高めることや症状の緩和が期待できる場合があります。
腹腔内化学療法
腹腔内に直接抗がん剤を投与することで、腹膜の播種巣に高濃度の薬剤を到達させ、効果を高めることを目的とした治療法です。ただし、がんの種類によって適応が異なり、一部の薬剤は保険適用外であることには注意が必要です。
痛みに対する治療
がん自体の治療と並行して、痛みそのものを取り除くための対症療法も積極的に行われます。
薬物療法
腹膜播種による痛みには鎮痛薬が有効です。医療用麻薬であるオピオイドや、NSAIDs(ロキソプロフェンなど)、アセトアミノフェンなどの非オピオイド鎮痛薬を用います。鎮痛薬は、痛みの強さに応じて複数の種類を組み合わせて投与します。
薬物療法以外
神経ブロック痛みの原因となっている神経の近くに薬剤を注射し、痛みの伝達を遮断する方法です。
放射線治療痛みの原因となっている特定の播種巣に放射線を照射し、がん細胞を小さくすることで痛みを和らげる治療法です。
腹水に対する治療腹水によるお腹のハリを伴う痛みに対しては、腹水を減らす治療が有効な手段です。腹水を抜く腹水ドレナージに加えて、利尿薬や腹水濾過濃縮再静法なども行われることがあります。

