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生活苦手者たちの国|狗飼恭子

生活苦手者たちの国|狗飼恭子

最近よく聞いているポッドキャストのトークテーマが「生活が苦手」だった。

出演者は二十代後半くらい。文章を書いたり俳優をしたり演出をしたりしている人たちだ。

彼らの言う「生活が苦手」の例は、習い事に行けない、支払いができずライフラインが止まる、自動車免許の更新ができずに失効する、など。

「俺より才能ある人には嫉妬しないけど、俺と同じ仕事量なのに生活が豊かな人がいたら嫉妬する」

と、話し手の一人が言っていた。

生活が苦手だと人が言うとき、どうしてかどこか少し誇らしげに見えるのは何故だろう。生活する間も惜しんで努力と鍛錬をしているわけだから、それは誇りに思っていいことだとわたしが考えているからかもしれない。才能なるものがもしあるとしたならば、「それ以外」の100倍くらい「それ」をし続けられること、なのだろうから。

かくいうわたしも生活が苦手な生き物である。もちろん。

たとえばわたしの場合、一人暮らしをしていたころは、

・請求書が書けないので働いても入金がない。

・家での食事はほぼすべてクッキー。理由は、賞味期限、食べ物の腐敗、食器洗いなどを回避できるから。あとは栄養のためにときどき豆腐。所持する調味料は塩のみ。

・大掃除の時期が来たら引っ越す。

・美容院へ行けないので自分で切る。

・いい夢が見たい、という理由で毎晩飴玉を口に入れて眠るという生活を続けた結果虫歯だらけになる

などであった。もちろんインフラが止まったこともあるし習い事は続かないしその前にまず申し込めない。車の免許は今も昔も持っていない。

現在は、幸いにもそれなりに生活ができている。

請求書を書いてくれる事務所があるし、食材を買って手作りし食器を洗ってくれる人がいるし、ルンバがあるし、髪は自分で切ってもそんなに問題ないし、習い事など最初から諦めているし、飴玉は買わない。歯医者は今も苦手だけれど。

豊かじゃないかもしれないが、わたしにとっては充分な暮らしだ。

そういえば最近観た映画で、70代の映画監督の台詞にこんなものがあった。

「今や芸術家は小市民だ。日常に追われていたら傑作は生まれない」

それももしかしたら真実なのかもしれない。

だからこそ生活苦手者にとって大切なことは、自分のできないことをしてくれる他者をみつけることなのだ。

相手が苦手とすることはもちろん自分がする。得意なことを持ち寄って、苦手なことを手分けする。お互いへの大きな感謝とリスペクトを持って。

懸念があるとしたら、請求書が書けたり衣食住を整えるのが得意だったりする人たちは、多くの生活苦手者たちの得意とすることを必要としていない可能性があるということである。その場合は、面白い話をするとか聞き上手になるとかで対処するしかない。

もちろん人じゃなくてもいい。食洗器や自動掃除機。家事代行。税理士。人工知能。公共交通機関。ロボット。神頼み。きっといろいろある。

世の中の生活苦手者たちよ。だから諦めないで欲しい。

そしてどうしてもどうしても無理そうだったら、みんなで生活苦手者たちの国を作ろう。その国ではライフライン払い込み大臣とかルンバ起動大臣とかを作って、生活が豊かになることを頑張る人に名誉を与えることにする。どうにかみんなで力を合わせるのだ。どうせ我々の思う「豊かな暮らし」は、他の人たちにとって最底辺のものなのだし。

その日が来るまで、自分の好きな「それ」をとにかく好きでい続けよう。

でも一つだけ守って欲しいことがある。飴玉を舐めながら眠らないこと。それだけは絶対。

配信元: 幻冬舎plus

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