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「近いのに離れている」のにはそれだけの理由がある アンドラ公国で考える世界のつながり|原口侑子

「近いのに離れている」のにはそれだけの理由がある アンドラ公国で考える世界のつながり|原口侑子

仏大統領とカトリック司教がトップを務める奇妙なミニ国家、アンドラ公国。前編で法廷を覗いた弁護士の原口侑子さんは、街歩きの中でこの国ならではの「郵便局事情」に遭遇し、カタルーニャ文化を共有しながらも「私たちはバルセロナとは違う、山の人間だ」と語る地元民との交流を重ねていきます。「アンドラ編」後編をお送りします。

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その後、展望台へ登ったり隣町(といってもバスですぐ)に出かけたり協会を見たり、郵便局に行ったり、結局町に戻って3軒はしご酒をしたりした。

ハガキを出そうと観光インフォメーションセンターで聞くと、「スペイン側? フランス側?」と聞かれた。アンドラ公国に自前の郵便制度はなく、スペインとフランスの郵便システムを使っているらしい。分担は? セキュリティは? とかいろいろ気になるが、国民的には郵政民営化のようなもので、「うまいことやっているだろう?」というような自虐的自慢しか聞かなかった。

面白そうなのでスペイン系とフランス系でほぼ同時に出したハガキは日本までの道のりを競争し、当然のようにフランス側が1週間以上早く着いていた。

ここは長いことウルヘルというカタルーニャの地域特有のカトリック教会が共同統治していたので、今もフランスと共同統治になっている。海から離れた内陸で、バルセロナと共有しているのはカタルーニャ文化だけで、でもアンドラ人たちは自分たちのアンドラ人としてのアイデンティティを持っていて、山の人間だ、と言っている。

バルで飲んでいると隣の「地元民」の夫婦たちがアンドラの地ビールを飲めるところを教えてくれる。ここを「地中海世界」にカテゴリー分けするのがはばかられた。だけど私は最後まで地元の人と頑張ってスペイン語でしゃべり、最後のブランチもパエリアにした。そしてバルセロナへ帰った。

世界はつながっているよと言いたすぎて、「つながり」や「近さ」にばかりフォーカスしていた。だけど近いのに離れているのはそれだけの理由があるのだし、近いのに離れているのが続くとその国境の中にアイデンティティが作られていく。山と川に挟まれたこの小さい世界だと余計に人々は、「バルセロナと違って落ち着いていて平和な山のアンドラ人」になる。

距離的な近さはわかりやすいつながりだけど、無理に共通項を探す必要も、違う理由を探す必要も私のような凡庸な旅人にはなく、近くても異なるというたくさんの小世界を受容することから始まるのだなという気がした。それに、この渓谷の温泉地はまるで湯河原の川沿いのようにも思えた。川のにおいやかわいい地ビール。遠くても似ていることだってある。

法律とか裁判とかいう制度から追っていくと、地中海世界とか旧ローマ法の影響とか、つい広域「上から」の歴史ばかり考えてしまう。でもアンドラでトラブっているのはごく身近な、飲酒運転だとかご近所同士の脅迫とか、日本でもほかのヨーロッパでもなんならアフリカでもよく見かける小さな事件だった。法律世界に共通項を求めることは、旅先に共通項を求めることと同じくらい、旅の温泉をひとくくりにするのと同じくらい、乱暴で無理な試みなのかもしれないという気もした

なのになぜか私はまだ、「地中海世界」のカテゴリーの中でアンドラの裁判体験を語ろうとしている。

(参考)

Superior Council of Justice of Andorra | The High Council of Justice is the body that represents, governs and administers the judicial organisation, which ensures the independence and proper functioning of justice

 

配信元: 幻冬舎plus

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