お風呂で偶然胸に触れたり、乳がんのセルフチェックをしたりしたときに、奇妙なしこりに気がついたことはありませんか。くるくると動く丸い小さな塊です。
しこりを見つけても「これはもしかして乳がんかもしれない」と不安でパニックを起こさないでください。
専門医のチェックを受けると、しこりは乳腺線維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ)のような良性のものだったということも、実は少なくないのです。
今回は良性の胸のしこりの代表格である乳腺線維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ)についてご紹介します。
※この記事はメディカルドックにて『「乳腺線維腺腫」とは?発症しやすい年代や原因・症状についても解説!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
乳腺線維腺腫の受診の目安

どのタイミングで受診すれば良いですか?
「異常に気がついたタイミング」です。乳腺線維腺腫そのものは特に生命にかかわる病気ではありませんが、「乳腺線維腺腫だから大丈夫」と安易に自己判断してはいけません。なぜなら上記で述べた通り、乳腺線維腺腫は10代から20代に多い症状でしこりも3cm以下の場合がほとんどだからです。
似たような症状がある悪性の病気、たとえば初期の乳がんなどを乳腺線維腺腫と間違えている可能性があるので、検査は必要です。特にしこりの大きさが3cm以上ある方や、年齢が40代以上の場合には、検査を受けることを強くおすすめします。
それに当てはまらない患者さんの場合、それ以外の病気(たとえば乳腺葉状腫瘍や初期の乳がん)が疑われます。
その一方で、検査を受けて乳腺線維腺腫の診断が確定したら、半年か1年に1回程度定期検診を受けるだけで大丈夫です。
乳がんのしこりとどのような違いがありますか?
乳腺線維腺腫のしこりは、乳がんよりしこりの感じがやわらかくて弾力性があることが一般的です。
そして正常な組織との間の境界線がはっきりと確認できて、ころころと動きます。
乳がんの場合は乳腺線維腺腫より硬く、がんが周囲の組織と癒着するためあまり動かない傾向があります。
しかしいずれにしても、触るだけで乳がんのしこりとはっきり区別をつけることは難しいです。
どのような検査を行いますか?
触診と超音波検査でおおかたの診断はつきます。それでも乳腺線維腺腫ではなくて乳腺葉状腫瘍か初期の乳がんができている可能性を完全に否定することはできません。したがって、念のためそれらに加えて細胞診を行います。
細胞診の方法には2種類あります。ひとつは乳頭から分泌された液を採集して、その中に含まれている細胞に異常な性質のものがないかどうかを調べる「分泌液細胞診」です。もうひとつはしこりそのものに細い針を付けた注射器を刺して患部の細胞を採集する「穿刺吸引細胞診」です。
「穿刺吸引細胞診」では、そうして得られたサンプルに異常なものが含まれていないかどうかを顕微鏡で確認します。なお、乳がん検査のためマンモグラフィーを使うと、石灰化した乳腺線維腺腫が見つかることがありますが、すべて悪性とは限りません。良性の石灰化した乳腺線維腺腫も多いです。
編集部まとめ

乳腺線維腺腫についてご説明しましたが、胸のしこりがすべて悪性とは限らないことがご理解いただけたでしょうか。
胸のしこりに気がついたら、パニックを起こさずまず専門医に相談しましょう。
専門医のところへいきなり行くのは不安だという方は、まずかかりつけの先生に診てもらい、必要なら専門医へ紹介状を書いてもらうのも良い考えです。
参考文献
乳がん検診(マンモグラフィ・乳腺エコー)|日本予防医学協会
乳がんと間違えやすい病気|サワイ健康推進課
乳腺外科の病気:乳腺線維腺腫|徳洲会グループ

