治療に伴う機能への影響と術後ケア

頸部食道がんの治療は、生命を救うために必要不可欠ですが、その過程で声や飲み込む機能(嚥下)に影響が及ぶことがあります。特に手術で喉頭を摘出した場合や、放射線治療で組織にダメージが及んだ場合、声を出す機能や食べ物を飲み込む機能の低下が避けられません。そこで、治療後のリハビリテーションや代替手段の活用によって、できるだけ日常生活の質を維持・向上させることが大切です。本章では、声と嚥下機能への影響と対策を解説します。
声を失う可能性と代替手段
頸部食道がんの治療では、場合によっては声を失う可能性があります。特に声帯も含めた摘出を行った場合、手術後は自分の声で話すことができなくなります。喉頭を失った患者さんは、気管と食道が分離された状態で首の前面に永久気管孔と呼ばれる呼吸孔が造られます。この状況では通常の発声機能が失われるため、別の方法で声を作り出す訓練が必要になります。
代表的な代替音声の手段として、以下の方法があります。
食道発声(訓練によって空気を食道に入れて発声)
電気式人工喉頭(機械的に音声を発生)
シャント発声(気管食道シャント法):気管と食道の間に細い管(シャント)を設置
これらの方法に加え、筆談や音声アプリなどで補助することもあります。
嚥下リハビリ
嚥下機能(飲み込む力)のリハビリテーションは、頸部食道がん治療後の生活の質を左右する重要なポイントです。手術で食道や周囲組織を切除・再建すると嚥下の動きが変化しますし、放射線治療でも筋肉の硬化や唾液の減少により飲み込みが悪くなることがあります。適切なリハビリによって嚥下に関わる筋を鍛え、誤嚥を防止しつつ経口摂取の回復を目指します。摂食・嚥下リハビリの専門職(言語聴覚士)との連携がとても重要です。
頸部食道がんについてよくある質問
本章では頸部食道がんの患者さんからいただく、よくある質問についてメディカルドック監修医がお答えします。
頸部食道がんの治療で声を残すことはできますか?
声を残せる可能性はあります。がんの広がり具合によりますが、喉頭まで浸潤していない症例では化学放射線療法によって喉頭を温存し、声帯を残したまま治療することが試みられます。ただし、がんが声帯や咽頭にまで達している場合は喉頭ごと摘出せざるをえず、声は失われてしまいます。
頸部食道がんの治療後は、また普通に食事ができますか?
多くの患者さんは治療後に再び口から食事をとれるようになりますが、治療直後の段階では注意が必要です。手術を受けた場合、食道と胃のつながり方が変わるため術後しばらくは食事量が減り、体重が減少しがちです。また再建した消化管や放射線治療を行った部位が瘢痕化して狭くなることで、食べ物がつかえやすくなることもあります。最初はおかゆやゼリー食から始め、ゆっくりよく噛んで飲み込む習慣をつけましょう。

