旧奈良監獄は、日本の近代化の象徴として築かれた「明治五大監獄」(※)の一つで、そのうち唯一現存する貴重な施設。今回は「星野リゾート」の保存活用事業の一環として整備され、一般公開にいたった。
※明治期に竣工された5つの監獄のこと。「奈良監獄」「長崎監獄」「金沢監獄」「千葉監獄」「鹿児島監獄」がある。
開館に先駆け、4月20日に開催されたメディア向け先行内覧会では、その全貌を初公開。本記事ではその様子をレポートする。

■建築美と対峙しながら考える「自由とは何か」
旧奈良監獄は、1908年に近代化を目指した国の一大プロジェクトとして誕生。数多くの裁判所や監獄の建築に関わった山下啓次郎さんが設計し、その美しい建築から、2017年に国の重要文化財に指定された。

中央の見張台から放射状に舎房(※)が伸びる「ハヴィランド・システム」や、イギリス積みの赤レンガ壁など、当時から残る意匠と機能性を兼ね備えた建築美は一見の価値あり。
※独居房・雑居房といった居室の総称。

そんな旧奈良監獄の美しさを活かしながら、来館者が自らの生き方や価値観を考えるきっかけを提供する「奈良監獄ミュージアム」。コンセプトは「美しき監獄からの問いかけ」で、赤レンガ建築とともに紡がれてきた歴史と対峙し、規律に支配された空間や時間から“問い”を受けることができる。日々の生活と重ねながら「自由」について捉え直す、当たり前の日常を揺さぶるミュージアムだ。



同施設の監修を務めるのは、数々の有名企業のコーポレートアイデンティティや『デザインあ』(NHK Eテレ)の総合指導を担当する佐藤卓さんと、ルーヴル美術館ランス別館の常設展示デザインなどを手掛けるアドリアン・ガルデールさん。
先行内覧会に登壇した佐藤さんは、「4年ほど前にこのお話をいただいたときは、旧奈良監獄の存在すら知らなくて、実際に見たときに『こんなに素晴らしい建造物がこの状態で遺っているなんて』とすごく驚きました。正直、何をしていいのかわからなかったです」と振り返った。
続けて、「私は長年、“デザインの解剖”というものを行ってきました。今回もその手法を用いているので、ぜひ“解剖”という視点でも展示を見ていただきたいです。建築があまりにもすてきなので、それに負けないような展示に仕上げました。重要文化財なので壁に釘一本打てなくて苦戦しましたね(笑)」と話す。
最後に、「食事やお金など、普段の生活と照らし合わせながら、その価値やありがたみを知れると思います。『自由とは何か』を考えるきっかけになることを願っています」と締めくくった。

■旧奈良監獄と行刑の歩みを学べる「A棟」
「奈良監獄ミュージアム」には、A棟、B棟、C棟という3つの展示エリアがあり、それぞれテーマも異なる。

A棟では「歴史と建築」をテーマに、8つの展示室を展開。旧奈良監獄の成り立ちや「奈良少年刑務所」の活動、行刑制度の変遷について紹介しており、旧奈良監獄の全体図がわかる模型や元刑務官の証言インタビュー映像などが見られる。まずはここで、旧奈良監獄がどんなところなのかを学ぼう。





■受刑者の日常から「自由」を問う「B棟」
B棟のテーマは「規律と暮らし」。“刑務所”という特殊な社会での生活を、「規律」「食事」「衛生」「作業」「更生」「お金」「自由」という7つの部屋で解説している。

たとえば、「規律」では受刑者の髪型のルール、「食事」では一日の献立の一例や元旦のメニュー、「お金」では刑務所内で購入できる「自弁品」などを紹介。今の自分の生活と比較したり、「自分だったら」と想像力を膨らませたりと、見応えのある展示が続く。






最後の「自由」の部屋では、刑務所の中での自由時間について、模型を通して知ることができる。受刑者が見ていた景色を体験できるポイントもあるので、そこからの景色を見てどう感じるのか、考えながら立ってみてほしい。



■感性を揺さぶる「刑務所アート」が並ぶ「C棟」
かつての医務所を改装したC棟では、「監獄とアート」をテーマに、5組のアーティスト作品と受刑者による「刑務所アート」を展示。アートが投げかける鋭い問いに触れることで感性が揺さぶられ、日常を捉える視点をアップデートする時間になるはずだ。

展示には、受刑者が残した「詩」を200人超の市民の手で刺しゅうへと紡ぎ出した参加型作品や、“人間の業”や“罪と罰”への思索を深め、心を遠くへと誘う空間作品などがそろう。





2023年から続く「刑務所アート展」の応募作から選出された作品も見逃せない。画材や道具に厳しい制限がある刑務所で、創意工夫が凝らされたものばかり。最後には、刑務所で過ごす人やアーティスト、身近にいる大切な人など、誰かに伝えたい想いをカードに記して特別なポストに託す「むすびの部屋」も設けられている。


■明るく整然とした保存エリア「第三寮」
A棟、B棟、C棟のほか、全96室の独居房が連なる保存エリア「第三寮」も要注目。ヴォールト状の天井や窓からは自然光が差し込み、これは人権に配慮したものなのだとか。

明るい空間のため独居房であることを忘れそうになるが、頑丈そうなドアや鍵、「よじ登ることは不可能だ」と思わせる高くて平らな壁から、ふとした瞬間にその厳しい環境を感じる。


2階には「中央看守所」が。ここでは放射状に伸びる舎房全体を見渡せ、効率的に監視できるという設計だ。

■最後に楽しみたいミュージアムカフェ&ショップ
展示を堪能したあとは、ミュージアムカフェで休憩を。名物は、赤レンガをモチーフにした「レンガカレーパン」(600円)。カレーは奈良少年刑務所時代の人気メニューだそうで、ザクザクの生地とスパイシーなカレーがクセになる。ほかにも、ご当地ソーダや「チーズケーキ 1908」(600円)などがラインナップ。



カフェの奥にはミュージアムショップがあり、記念品の購入が可能。同施設がモチーフのアパレルをはじめとしたオリジナルアイテムや、奈良ならではのお菓子が勢ぞろいする。キャッチーなデザインのものが多く、お土産にもうってつけだ。





さらに、全国の刑務所作業製品を紹介するギャラリーも併設。佐藤さんがデザインの視点で選りすぐった逸品が集まり、それぞれ購入もできる。


なお、「奈良監獄ミュージアム」は公式サイトからの事前予約を推奨しており、料金は大人2500円(日本在住者)。奈良県在住者は大人2000円と、お得に見学できる。詳細は公式サイトを要確認。
そして、旧奈良監獄を活用したラグジュアリーホテル「星のや奈良監獄」も6月25日(木)に開業予定。監獄で見て、味わって、宿泊して、かつてない非日常感から「自由」について考えてみてはいかがだろうか。
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