東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。焙煎士や店主たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

第20回は東京都世田谷区にある「Raw Sugar Roast(ロー シュガー ロースト)」。2人のバリスタが手がけるロースタリー・カフェで、こだわりの詰まったスペシャルティコーヒーとモダンな空間で心地よいひとときを提供し、多くのコーヒーファンを魅了している。今回は創業者のひとりでヘッドロースターを務める小坂田さんに、開業までのエピソードとコーヒーに対する熱い思いを聞いた。

Profile|小坂田祐哉(こさかだ・ゆうや)
1989年、北海道生まれ。10年以上のキャリアを持つヘッドロースター、バリスタ。都内の有名ロースタリーを経て、2020年にバリスタ・小田さんとともに「Swim(スウィム)」を始動。大田区羽田に構えた焙煎所で豆の卸売業を行った後、2022年4月に「Raw Sugar Roast」を開業。2022年11月には世田谷区奥沢(自由が丘)にカフェ「amber(アンバー)」を開業するなど自社店舗の展開のほか、他店舗の新規立ち上げ、国内外のイベントへの参加と活躍の場を広げ続け、スペシャルティコーヒーの普及に取り組む。
■種からカップまで。思いを紡ぐバリスタとしての役割

上京後に勤務した飲食店でコーヒーに興味を持ちはじめ、その後、バリスタとして本格的にコーヒーの世界に足を踏み入れたのは「Paul Bassett(ポール バセット)」(渋谷)に勤めはじめた2014年ごろのこと。
「カフェダイニングで働いたことがあって、そこではコーヒーに触れる機会も多かった。そんななかでコーヒーが好きになって、どうせやるならもっと極めたいなと思うようになったんです。そして入ったのが、バリスタの世界チャンピオンが立ち上げた『Paul Bassett』でした。ここからが本格的なコーヒー人生のスタートですね。まずこのお店でスペシャルティコーヒーのおいしさを知ったことが大きい。今まで飲んでいたコーヒーとは違う、香りや味にとても驚きました。単なる焙煎度合いの違いだけではなく、豆の質から全くの別物なんだと実感。『1杯のコーヒーで感動させる』『コーヒーの概念を覆す』という自分のテーマにも通じる、大きな出合いになりましたね」

「Paul Bassett」には約1年勤務。スペシャルティコーヒーのおいしさを知り、先輩バリスタの技術を見ながら、主に抽出の技術を学んだ小坂田さん。その後、「Paul Bassett」で当時ヘッドロースターを務めていた人物から誘いを受け、「GLITCH COFFEE & ROASTERS(グリッチ コーヒー アンド ロースターズ)」の立ち上げメンバーに。約5年半勤め、バリスタとしての技術や知識をさらに高めていった。

「そして小田と出会ったのが『GLITCH COFFEE & ROASTERS』にいたころです。彼は国内外のカフェやロースタリーで経験を積んだ腕利きのバリスタ。すぐに意気投合し、“GLITCH”を退職後に小田とともに『Swim』を始動させました。最初は羽田空港からほど近い場所で焙煎豆の卸売業からスタートさせ、“お店を持たないロースター”として活動すること約2年。当時から『バリスタとしてだけでなく、新しいコーヒー業界での働き方をつくる』という明確な目標があって、その次なる一手として『Raw Sugar Roast』を開業させました」

店は打ちっぱなしのコンクリートや抜き出しの配管が特徴的。一見、無骨にも見える空間だが、そこにヴィンテージ風のインテリア、空間を彩るBGMといった要素が重なり、洗練さと落ち着きのある空間に仕上がっている。
「軽食やスイーツ系は最小限に抑え、コーヒーは“スペシャルティ”だけを扱っています。これもプロとしてコーヒーに集中し、目標である『感動させる』1杯を提供するため。1杯のコーヒーで感動させることができれば、『コーヒーの概念を覆す』というもうひとつの目標にもつながると思っています」

「単に酸っぱい、苦いなどコーヒーに対して、あまりよくないイメージを持つ方もいるかもしれません。そんな方にも、うちのスペシャルティコーヒーを飲んでほしい。スペシャルティコーヒーには『from seed to cup(=種からカップまで)』という概念があって、これは基本であり、重視すべきこと。豆の生産からカップに入るまでミスなく、基準を満たしてやっとスペシャルティコーヒーと名乗れるんです。私だと焙煎と抽出をして、カップに注ぐまでの最後の工程を担う、いわばアンカーのような存在ですね。ミスのないように徹底するのは当然。何より生産者に対して、そして飲む方にきちんとおいしいスペシャルティコーヒーを出さないと失礼ですから」
■心地よい余韻を残す。おいしいスペシャルティコーヒーの条件

豆は常時12〜13種類。エチオピア、ケニアをはじめ、世界各国から時期ごとにラインナップを変え、常に良質な豆を買い付けている。

「スペシャルティコーヒーには3つの条件があります。まず1つ目は、豆ごとに『際立つ印象的な風味特性』をしっかりと持っているか。2つ目は単に酸っぱい、または酸味が感じられないものではなく、『さわやかで明るい酸味特性』があるか。最後は、後味に持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。飲んだあと、雑味なく心地よい余韻が残るものであるか。3つを満たしてこそ感じられる、おいしさをぜひ知ってもらいたいです」
「なかには希少な豆で1杯1700円と高めのものもありますが、コーヒーの味だけでなく、時間に対する価格も含まれると思っています。安価ではないコーヒーを出すなら、味わいの複雑さや温度による変化などを表現して、その分ゆっくりと長く楽しめるようにしないといけないですよね」

焙煎は「Giesen(ギーセン)」の半熱風式、15キロの大型の焙煎機で行う。先述したスペシャルティコーヒーの条件を満たすためにも重要な作業だ。豆を見極め、適切なポイントを抑えることが大事だと語る小坂田さん。

「うちで扱う豆はすべて浅煎り。私が選ぶ豆でいうと、たとえば深煎りだと先述の3つの条件に当てはまらなくなってしまうので、浅煎りでしかやりません。豆ごとに焙煎ポイントを見極めて、投入する豆の量から火力、1秒単位で変える焼き時間など細かい調整を繰り返す。豆の風味を最も引き出す“ハマる”焙煎を見つけ出すことは、妥協できないポイントです」

抽出は「ハリオ V60」を使ったハンドドリップ。重視しているのは、抽出によってコーヒーの味にフィルターをかけないこと。

今回飲んだ1杯(※写真)は洋梨やラズベリーなど重なるフルーティーな風味が特徴的。あとに残る甘さの余韻が心地よく、まさに至福の1杯だった。
専門学校の講師を務めるなど次の世代への指導にも力を入れ、幅広い活動を行う「Raw Sugar Roast」。このようにスペシャルティコーヒーの質の向上を目指し続けるのもコーヒーの概念を変えるため。そして生産者からのバトンを受け、アンカーとしての役割を果たすための責任とも思えた。

■【小坂田さんレコメンドのコーヒーショップは「ignis coffee」】
「東京都文京区にある『ignis coffee(イグニス コーヒー)』。店主の土橋さんとは「Paul Bassett」「GLITCH COFFEE & ROASTERS」でともに働き、10年来の付き合い。自身のお店を開業し、コーヒー業界で活躍し続けている同志です。コーヒーに関する技術が高く、味もおいしい。信念を持ってコーヒーづくりに取り組んでいる人物なので、彼の魅力を知って、自慢のコーヒーを楽しんでほしいですね」(小坂田さん)
【「Raw Sugar Roast」のコーヒーデータ】
●焙煎機/Giesen15キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60、GINAほか)、エスプレッソ(マルゾッコ)
●焙煎度合い/浅煎り
●テイクアウト/あり(648円〜)
●豆の販売/150グラム1950円〜
取材・文/GAKU(のららいと)
撮影/大野博之(FAKE.)
※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

