むし歯は身近な病気です。子どもから高齢の方まで、年代を問わず発症する可能性があり、20歳以上の9割程度がむし歯を経験しているとされています。むし歯を放置すると痛みや腫れが生じるだけでなく、食事や会話など日常生活に支障をきたすこともあります。さらに、重症化すると全身の健康に影響を及ぼす可能性もあるため、単なる歯の問題として軽視することはできません。本記事では、むし歯の基礎知識から進行の特徴、検査方法、治療法を解説します。
参照:『大人のむし歯の特徴と有病状況』(厚生労働省)
むし歯の基礎知識
むし歯は、お口の中で起こる微細な化学反応や、日々の生活習慣の積み重ねによって進行する病気です。最初は目立った症状がなくても、知らないうちに進行していることがあります。ここからは、むし歯の症状と原因を解説します。
むし歯の症状
むし歯は進行に伴って症状が変化する病気です。初期には痛みや違和感がほとんどなく、自覚するのが難しい場合が多くあります。最初の兆候として、歯の表面が白く濁って見える白濁(ホワイトスポット)が現れることがあります。これは、エナメル質の表面が酸によって溶け始めることで光の反射が変化するためです。日常生活に支障はなく、歯科検診で指摘されて初めて気付くことも少なくありません。
むし歯が進行すると、冷たい飲み物や甘い物をお口にした際にしみる感覚が現れます。これは、歯の内部にある象牙質が刺激を神経に伝えやすくなるためです。さらに進行すると、温かい物でも痛みを感じるようになり、ズキズキとした持続的な痛みや、夜間に眠れないほどの強い痛みが生じることもあります。この段階では、食事や会話など日常生活に大きな影響が及ぶこともあります。
重度になると、歯が欠けて噛む力を失うだけでなく、炎症が歯の根から顎骨へ広がる可能性があります。さらに、細菌が血液を通じて全身に広がると、発熱や倦怠感などの全身症状を引き起こすこともあります。つまり、むし歯はお口だけでなく、全身の健康にも影響を及ぼす病気といえます。
むし歯の原因
むし歯は偶然できるものではなく、いくつかの原因が関わって発生する病気です。特に重要とされているのは以下の4つです。
細菌
糖質
歯の質
時間
まず、むし歯の原因として大きな役割を持つのが細菌です。お口のなかにはミュータンス菌という細菌が存在し、食べ物や飲み物に含まれる糖分をエサにして酸を作り出します。この酸が歯の表面を少しずつ溶かしていきます。
次に関わるのが糖質(甘い物)です。チョコレートやお菓子、ジュースなどを摂取すると、お口の中は長時間酸性の状態になり、歯がダメージを受けやすい状況が続きます。
また、歯の質そのものにも個人差があります。エナメル質が厚くて丈夫な方もいれば、薄くてもろい方もいます。また、歯の質には唾液の働きも含まれます。唾液には酸を中和する力や、歯を修復する成分を届ける働きがあります。しかし、もともと唾液が少ない方や、加齢や薬の副作用などでお口が乾きやすい場合は、この防御力が弱まり、むし歯になる可能性が高まります。
そして最後に関わるのが時間です。酸が歯を溶かすスピードに対して、唾液による緩衝が追いつかなければ、むし歯は進行してしまいます。つまり、甘い物を食べてもすぐに歯を磨く、食べる時間を工夫するなどを意識することで、むし歯の可能性を抑えることができます。
このように、むし歯は甘い物を食べすぎた、歯みがきが足りないといった単純な理由だけでなく、細菌、食生活、体質、生活リズムなど、複数の要因が絡み合って発症する病気だといえます。
むし歯の段階別|特徴と自覚症状
むし歯は進行度によってCO(要観察歯)からC4までの段階に分類されます。これは歯科診療で広く用いられる指標であり、各段階ごとに見た目の特徴や自覚症状、治療法が異なります。ここでは、それぞれの段階における特徴と症状について解説します。
CO:要観察歯
CO(シーオー)はCaries Observationの略で、むし歯が始まる直前の状態を指します。エナメル質の表面が酸によって溶け始め、白く濁って見える、光沢が失われるのが特徴です。穴は開いておらず、痛みやシミる感覚もありません。
この段階では治療は不要ですが、定期的な経過観察が推奨されます。生活習慣を見直すことで、健康な状態に戻せる可能性が高い段階です。
C1:エナメル質のむし歯
C1は歯の外側にある硬いエナメル質に限局したむし歯です。歯の表面がザラつく、シミや小さな黒い点が現れることがありますが、神経には達していないため、痛みはほとんどないといわれています。
この段階でも自覚は難しく、定期健診で発見されることがほとんどです。早期に治療すれば削る量はごくわずかで済み、歯をほぼ残した状態で治療が可能です。
C2:象牙質まで進行したむし歯
C2はエナメル質の内側にある象牙質までむし歯が広がった状態です。象牙質はエナメル質よりもやわらかく、酸に溶けやすいため、進行が早いのが特徴です。
この段階では、冷たい飲み物や甘いものをお口に入れるとシミるようになり、食べ物を噛んだ際に痛みを感じることもあります。見た目は小さな穴でも、内部では大きく広がっている場合があり、正確な診断にはレントゲン検査が必要です。
C3:神経まで進んだむし歯
C3では、むし歯が歯の神経(歯髄)にまで達した状態です。ズキズキとした強い痛み、冷たいものや熱いものがしみる感覚、さらに何もしていなくても痛む自発痛が特徴です。これらの痛みは夜眠れないほど強いことがあり、食事や会話が難しくなるなど、日常生活に大きな影響を及ぼします。
この段階を放置すると、炎症が進行して歯の神経が死んでしまい、その後に感染が歯の根の先へ広がって膿がたまることがあります。これを根尖性歯周炎と呼び、顔の腫れやリンパ節の腫れ、発熱を伴う場合もあります。
C4:ほとんど歯が失われたむし歯
C4はむし歯の最終段階で、歯の大部分が崩れ、根だけが残った状態です。神経がすでに死んでいることが多く、強い痛みが一時的に消える場合もありますが、細菌は根の周囲に広がり続け、慢性的な感染源となってしまいます。その結果、顎骨炎や全身への感染を引き起こす可能性が高まります。
外見上は歯が欠けて根だけが残っているため、噛む力が著しく低下します。これにより食事が制限されるだけでなく、会話がしづらくなるなど、日常生活全般に影響が生じます。

