本読みのアルパカ内田さんと、幻冬舎作品を誰より愛する営業部のコグマ部長。
2人が、幻冬舎の新刊の中からお気に入りを選んで、おススメしあう、本コーナー!
今月のコグマ部長のおすすめはこちら。
(あわせて、アルパカさんがコグマさんにおススメした作品についても、お楽しみください)
【幻冬舎営業部 コグマ部長から、
アルパカ内田さんへオススメ返し】
戌井昭人『あんたはだいじょうぶ』
鉄熊みち代は、足芸をする曲芸一座の家に生まれた。3歳でアメリカ巡業に出るが、6歳で父と生き別れ、18歳で母を喪う。ある日、ピストルの流れ弾にあたって天啓を受け、街角で足芸を始めることに。
一方こちらは、人生の味わいをしみじみと感じる傑作小説。
50年代の米・サンフランシスコの街頭。58歳のみち代は古びたりんごの木箱の上に立ち、行き交う人に「あんたはだいじょうぶ、ユーアーオーケー」と1日中声を掛けている。最初は「イカれたおばさん」と思われていたが、いつの間にか声掛けで「借金を返す目処がたった」「怪我が治った」などの評判が立ち、いまではすっかり街の光景に。ある日、息も絶え絶えの東洋人の男が現れる。彼は十年以上前、声掛けを始めたみち代にここに立ったらどうかと、りんご箱を持ってきた人物だった。物語はこの2人の再会を起点に、それぞれの過去とそれからを丁寧に描いて進む。日本で曲芸一座の家に生まれたみち代は3歳で家族の巡業に
ついていく形で渡米。その後父親と生き別れ、のちに母親とも死別、それからは数奇な人生を送っていたのだった。そして、りんごの木箱の男も日本人でありながら、ベトナム戦争に従軍、その際に左手の指をすべて失っていた。
それぞれの人生の奥深さはもちろん、人の営みの一筋縄ではいかない歯がゆさと切なさ、だからこその面白さが淡々とした筆致で伝わってくる。うまくいかない人生もどこかで辻褄が合うようになっていると思わせる力が、みち代に、この小説にあるから不思議だ。読者はいつの間にか、彼女の魔法の言葉「あんたはだいじょうぶ」に背中をそっと押されているのである。不思議なパワーが詰まった作品に出合えたことを喜びたい!

