認知症の進行速度
認知症の進み方は個人差が大きく、病型によっても特徴があります。アルツハイマー型認知症は、ゆっくりと少しずつ悪化することが多く、10年前後をかけて段階的に進みます。脳血管性認知症では、脳梗塞や脳出血といった発作の影響で急に状態が変化し、階段を下りるように悪化するのが特徴です。レビー小体型認知症は症状の波が強く、同じ日でも落ち着いている時間帯と混乱が強い時間帯が入れ替わることがあります。前頭側頭型認知症は行動や性格の変化が早い時期から目立つため、短期間で介助が必要になる場合もあります。
進行の速さには、病型以外の要因も関わることがあります。糖尿病や高血圧などの持病、脳の萎縮の程度、遺伝的な背景のほか、家族や社会的な支えの有無などが影響します。
認知症の治療方法
認知症を完全に治す方法は現時点ではありませんが、進行を遅らせたり症状を和らげたりする治療があります。治療の内容は進行段階によって変わり、薬の選択や目的も異なります。
段階主な薬剤適応
前兆期レカネマブ
ドナネマブレカネマブやドナネマブはアルツハイマー型認知症の軽度認知障害(MCI)や軽度の認知症に適応がある。
ドネペジルなどの抗認知症薬はこの段階では適応なし。
初期ドネペジル
ガランタミン
リバスチグミン
レカネマブ
ドナネマブアルツハイマー型認知症では、コリンエステラーゼ阻害薬3剤(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)が標準治療である。
レカネマブやドナネマブを使用することもある。
レビー小体型認知症ではドネペジルのみ使用できる。
中期ドネペジル
ガランタミン
リバスチグミン
メマンチンアルツハイマー型認知症では、コリンエステラーゼ阻害薬だけでなくメマンチンも使用可能である。
レカネマブやドナネマブは新規導入できない。
レビー小体型認知症ではドネペジルのみ使用できる。
末期ドネペジル
メマンチンドネペジルやメマンチンのみが使用できる。
ガランタミンやリバスチグミンは適応外である。
アルツハイマー型認知症の前兆期では疾患修飾薬(レカネマブやドナネマブ)を検討します。これらはアミロイドβたんぱくの蓄積を抑え、病気そのものの進行を遅らせることを目的とした新しいタイプの薬です。初期では、記憶障害や注意力の低下に対して、コリンエステラーゼ阻害薬を用います。中期ではメマンチンが加わり、行動や心理の症状(BPSD)にも効果が期待できます。末期では薬の新規導入は少なく、苦痛の緩和や生活の快適さを守る対応が優先されます。一方で、前頭側頭型認知症や脳血管性認知症では、記憶障害など主症状に効果がある薬は存在せず、薬物による進行抑制は難しいのが現状です。そのため、症状に応じた生活支援や介護体制の整備が治療の中心です。
BPSDは、どの段階でも現れることがあります。環境の工夫や介護の方法を調整することが基本ですが、それでも強い不安や幻覚、妄想などが続く場合には、リスペリドンやブレクスピプラゾールなどを少量・短期間で使用することがあります。薬は副作用のリスクがあるため、常に慎重な判断が必要です。
参照:『アルツハイマー型認知症の新しい薬ができました』(東京都福祉局・東京都健康長寿医療センター)
『認知症疾患診療ガイドライン2017』(日本神経学会)

