サントリー美術館「幕末土佐の天才絵師 絵金」血と芝居と夏祭り─土佐が生んだ異彩の絵師「絵金」の世界へ

01_●冒頭の芝居絵伊達競阿国戯場 累 二曲一隻 香南市赤岡町本町二区【通期展示】

東京・六本木のサントリー美術館で11月3日まで開催中の「幕末土佐の天才絵師 絵金」は、幕末から明治初期にかけて高知で活躍した絵師・金蔵(きんぞう)、通称「絵金(えきん)」の作品を紹介する、東京の美術館では初となる大規模な展覧会です。歌舞伎や浄瑠璃をモチーフにした極彩色の芝居絵屏風をはじめ、絵馬提灯や災害記録画など、絵金の多彩な画業の全貌が明らかになります。

御用絵師から町絵師へ──波乱の人生

絵金こと弘瀬金蔵(1812–1876)は、高知城下・新市町に髪結いの子として生まれ、幼い頃からその画才を認められていました。18歳で江戸に遊学し、土佐藩御用絵師・前村洞和に入門。のちに同門の後輩となる河鍋暁斎の兄弟子にあたります。

通常10年かかるとされる修行をわずか3年で終え、狩野派の絵師「林洞意」として帰郷。20代で土佐藩家老の御用絵師を務めるなど、異例の出世を果たします。

02_●会場のようす 芝居絵2劇画のような屏風が並ぶ圧巻の展示室

しかし33歳のとき、贋作事件に巻き込まれたともされ、御用絵師の地位を剥奪され、城下追放の処分を受けます。以降は「町絵師・金蔵」として市井の人々に絵を描き、「絵金さん」として親しまれながら、独自の表現世界を築いていきました。

芝居絵屏風─極彩色のカタルシス

絵金が到達した表現の頂点が「芝居絵屏風」です。歌舞伎や浄瑠璃などの演目を、二曲一隻の大きな屏風に大胆に描いたもので、土佐では今なお、夏祭りの際に神社や商店街に飾る風習が残っています。

提灯や蝋燭の灯に照らされた芝居絵は、幻想的でありながら、生々しい赤「血赤(ちあか)」を多用した迫力の表現と、悲劇的な表情が見る者の心を強く揺さぶります。

03_●芝居絵芝居の名場面を、二曲一隻の迫力ある屏風に表現 左から、忠臣二度目清書 寺岡切腹 二曲一隻 香南市赤岡町横町二区、競伊勢物語 春日野小芳住家 二曲一隻 香南市赤岡町横町二区【いずれも通期展示】

今回は、須留田八幡宮に伝わる代表的な芝居絵屏風をはじめ、赤岡町の4地区が所蔵する貴重な屏風絵が一堂に会します。普段は高知県内でしか観られない文化財を、東京でまとめて観賞できる貴重な機会です。

また、展示されている芝居絵屏風には、物語の背景や登場人物の関係がわかる丁寧な解説パネルが添えられており、登場人物の名前や台詞、場面の構図などが図解付きで紹介されています。

芝居絵は、当時の観客が物語を知っていることを前提に描かれていたため、現代人にはわかりづらい部分もありますが、こうしたナビゲーションにより、絵の中のドラマを「読むように観る」楽しさが自然と引き出されます。

配信元: イロハニアート

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