
櫻坂46 三期生が総出演するドラマ「路地裏ホテル」のエピソード5「あのときの声」(前後編)が、5月1日と8日にLeminoで配信された。エピソード5では、山下瞳月が演じる出版社の営業・望月咲が、出張先で泊まった“路地裏ホテル”の205号室から小説の世界に迷い込む。気付けば学ラン姿で高校の応援部に所属しており、向井純葉演じる団長・稲葉京花と出会った。(以下、ネタバレを含みます)
■エピソード5の主人公は山下演じる効率重視の新入社員
本作は、櫻坂46の三期生11人が出演する青春ファンタジーオムニバスドラマ。都会の喧騒から離れた場所にひっそりと佇む「路地裏ホテル」を舞台に、仲村トオル演じる“支配人”に鍵を渡され205号室に入った宿泊客たちが、不思議な世界を体験しながら、さまざまな悩みと向き合い、成長する様が描かれている。
宇多川出版の新入社員・咲は、取引先へのあいさつをAIの作成した無機質なメールで済ませ、売り込む小説「鬨の声」も一切開くことなく、AIによるデータ要約で“読了”。ランチは手軽に栄養の摂れるプロテイン、必要以上に同僚たちとコミュニケーションを取ることもなく、効率重視でそつなく与えられたタスクをこなす日々を送る“イマドキ”の若者だ。
先輩社員の坂上(朝倉あき)からは「望月さん、頑張るの嫌い?」「効率的にやることは大切だよ。手を抜くつもりじゃないのも分かる。でも、汗をかかなかった仕事は相手にバレる。誰の心も動かさない」と言われても、どうにもピンとこない表情で、心には響いていない。
そんな坂上と一緒に書店周りで地方を巡ることになり、前乗りでホテルに泊まることに。しかし、ホテルが予約できておらず、偶然見つけた「路地裏ホテル」へ。“205号室”に案内され、部屋に入ると、なぜか詰襟の学ラン、ピンクのハチマキ姿で、三櫻高校応援部の一員になっていた。後で本人も気付くが、ここは咲がちゃんと読んでいない小説「鬨の声」の世界だった。
団長の京花から叱咤を受け、見よう見まねで練習に参加するも「あの、ここどこですか…?私、何でここに…えっ?えっ?」と混乱し、そのまま気を失ってしまう。
目を覚ますとそこは保健室。会社の上司である坂上に良く似た教師・木下(朝倉あき・二役)がおり、廊下には宇多川出版の社長(石田剛太・二役)らしき人も教頭として現れた。「坂上さん、これ夢ですよね?」と大慌ての咲。「タイムスリップ映画のネタバレショート的なものよく見るよね」「これは夢か。夢にしてはすごいリアル…」などとああでもない、こうでもないと考えながら咲は、京花らのいる教室へ。
そこで教頭からこの高校の廃校が決まったらしいと聞き、泣いて生徒たちに詫びる教頭を見てもやはりどこか冷めた様子の咲。ただ、ここでようやくこの世界が“要約しか読んでいない”「鬨の声」の小説の世界であると気付いたようだ。だが、その後も何日たっても元の世界へは戻れない。
■京花たちが“頑張る理由”を聞き、咲の心も徐々に…
効率重視で生きる社会人の咲には、自分と対照的な世界線にいる高校生・京花はまぶし過ぎた。思わず木下に「あの女、何なんですか?応援部の。私、あの手の人、世界一苦手です」とこぼし、「あんな生産性のない謎の団体芸に毎日毎日時間を使うとか、私ああいう無意味なもの苦手です」とバッサリ。
それを受け、彼女の主張にも一定の理解を示しつつ、木下は「でもさ、人の感情を動かせるのって結局そういうものなんだって思うんだよね。私が教師になった頃はさ、熱血教師とかバカにしてたからさ、ほどほどに授業をして生徒と関わるのも必要最低限で」「でも、そういうスタンスでいると誰の心も動かせないんだよね」と“元の世界”の坂上と同じニュアンスのことを言い、「まあ、無意味と思うものに1回巻き込まれてみるのもいい経験だと思うけどね」と優しく諭す。
それでも響かなかった咲。渋々部活に参加するも「やっぱ無理」と練習を抜け出し、部員が大勢辞めたバスケットボール部でひたむきに頑張る主将の北野(石川愛大)に「何でそんな頑張るの?将来バスケの選手になるの?」「勝てないじゃん。頑張ったって意味ないって思わなかったの?」とかみつき、それをたしなめた京花にも「応援部って何なの?バカみたい。意味あるの?」「他人のことを応援して、自分に何のメリットがあるの?」と言い放つ。
そこで、京花が応援部に入った経緯や、たとえ自分にメリットがなかったとしても応援部で「頑張れ」と応援し続ける理由、北野からも「あんな姿を見せられたら頑張るしかなくない?」と応援部の応援が原動力になっていることを聞き、自分の心の奥底にしまい込んでいた「頑張ってみたい」という思いがよみがえってくる。コスパやタイパだけじゃない、“一生懸命頑張る”大切さに気付き始め、バスケ部の応援に全力を尽くしてみることに――。
■慣れない演技に奮闘した三期生たちの“LAST SONG”
櫻坂46 三期生によるフレッシュな演技が見られるドラマもいよいよ最終回。ワンマンライブならさしずめスクリーンに「LAST SONG」と表示される頃か。オムニバスらしく幅広い作風のドラマがあったが、ラストは「汗をかいて頑張る」ことが少し気恥ずかしくなり、目指した夢も思い出せなくなってきた大人へのメッセージも込められた物語。
無理に頑張ったり、一生懸命に考えたりせず、思考を停止させてもAIに聞けば一瞬で答えが出てしまうこの時代。映画やドラマも「冒頭10分無料」や「ロング予告」で見た気になり、小説はあらすじ要約やネタバレレビューで読んだ気になる。コスパやタイパという言葉を便利に使い、何事もそつなくこなすことが正義。頑張っている“フリ”や、悲劇のヒーロー・ヒロインを演じるのはうまい。
もちろんそれが全て悪いことではないだろうが、時間はあんなにあったじゃないか。もっと頑張ってみてもいいんじゃない?という、現代を“うまく生きるだけの人”へ向けての応援歌であり、頑張っても報われないと思う人に対する応援歌である。「櫻坂46は誰も置いていかない」という言葉があるが、ある意味そのマインドが感じられるストーリーになっていて、見終わった後は自分事に置き換え、勝手に絶望せず、もうちょっと頑張ってみようかなという気にさせられた。
■細部にわたってちりばめられた櫻坂46への愛
何より、効率重視の主人公・咲役の山下のちょっと冷めたような演技が実に見事。ダンスの“音ハメ”が抜群で、振付の難度が高ければ高いほど輝く印象の彼女だが、セリフ回しも初めてとは思えないほどうまい。なるほど。だからこそ数万人が静寂に包まれた会場で発せられる彼女のセリフが胸を打つのだろう。
そして過去を乗り越え、とにかく明るい京花を演じる向井の団長姿は、実にまぶしい。“楽屋番長”で明るい子に見えて、実は人見知り。ゲラゲラ楽しく笑っている裏で人一倍努力をするタイプの向井にピッタリなキャラクターでもある。ちなみに本作の撮影現場では、人見知りをしない年長の山下が向井をリードし、他の共演者ともコミュニケーションを取れたという。
2人のキャラクターのコントラストが実に鮮やかだし、演じるのが彼女たちだったからこそ心に響く場面が多かった。やり直そうと思えば、「今さら」とか「遅過ぎる」ということはない。やるか、やらないのか、それだけ。そんな気持ちにもさせられた。
だって、「私の趣味は皆さん(櫻坂46)の生写真を集めることです…」と涙ながらにか細い声で先輩メンバーにあいさつしていた少女が、それから約3年半後、7万人を前に「国立まとめてかかってこい!」と力強い声で煽っているとはあのとき誰が夢見ただろうか。
ちなみにラストエピソードのメイン脚本を担当した下田悠子氏といえば、Buddies(櫻坂46ファン)を公言する脚本家。劇中には、宇多川出版(『UDAGAWA GENERATION』)や、櫻坂46三期生だからこその三櫻高校。応援歌(校歌)に「咲けよ 咲けよ 咲けよ 満開 三櫻」と、櫻坂の円陣での掛け声をオマージュしたような歌詞があったり、振りに“櫻ポーズ”が取り入れられていたり。
さらには山下がセンターを務める楽曲「もう一曲 欲しいのかい?」のライブでのパフォーマンスを彷彿とさせる、間奏…ならぬ試合終盤の咲の「そんなもんじゃねぇだろ!」の煽り(鼓舞)だったり、Buddiesならクスッとしてしまう櫻坂46愛も詰まっている。
ラストにはBuddiesが歓喜するシーンも待っているので、宣伝用のショート動画や予告で満足せず、最後まで彼女たちの物語を見届けてほしい。視聴した後、きっと引きこもっている時間なんてないと思うはず。
これでこの物語は最終回だが、慣れない演技を“頑張った”多彩で多才な三期生たちがこの先どんな未来地図を描いていくのか、楽しみでならない。
◆文=中山凪桜

