●「トレパク」は肖像権侵害になる?
次いで(2)肖像権です。肖像権とは、無断で自分の容貌を撮影されたり、公表されたりしない権利です。明文の法律はありませんが、裁判を通じて認められてきました。
しばしば「たとえわずかでも肖像が写し取られていたらすべて肖像権侵害」という誤解が見られますが、裁判所はそのような判断をしたことはありません。
リーディングケースといえる2005年の最高裁は、いわば「程度問題だ」と言っています。社会生活を営む以上、ある程度は、自分の姿が人目に触れることを我慢すべきだが、一般人基準で我慢できないレベル(受忍限度)というものを超えれば侵害だというわけです。これはイラスト化された場合にもあてはまります。
そして、どの程度でこの我慢の限界を超えるかというと、「6要素の総合考慮」と述べています。「誰が写されたか」「どこで写されたか」「何をしているところか」「どう写されたか」「何のために写されたか」「それは必要だったか」といった要素です。
既存の写真をイラスト化する場合も、基本的には同じように考えるでしょう。
「総合考慮で受忍限度」というと、ちょっと判断に困りそうですが、デジタルアーカイブ学会ではこれをポイント制で整理した肖像権ガイドラインを公表しています。
本来は、写真のアーカイブ利用についてのガイドラインで、イラスト化に直接あてはまるものではありませんが、よろしければ考え方の参考になさってください。
●トレパクがパブリシティ権に抵触するケースは?
最後に(3)パブリシティ権です。これは、いわば芸能人などの名前や肖像の人気・魅力(顧客吸引力といいます)を無断で利用されない権利です。
典型例は、芸能人やスポーツ選手の写真を無断で使って写真集を出したり、商品化したり、広告に使ったりする、といった3類型です。
他人の肖像の持つ「顧客を惹きつける力」を利用することばかりを狙って肖像を無断利用すると、この侵害にあたります。これも、イラスト化でも成立します。
トレパクでも、用途などに照らして、もし被写体としての一般的な受忍のレベルを超えるようなイラスト化をしたり、もっぱら肖像の持つ顧客吸引力だけを狙って利用した場合には、写真の著作権に加えて、肖像権・パブリシティ権の侵害に該当する可能性が高まります。
【取材協力弁護士】
福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士
骨董通り法律事務所 代表 弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院・iU ほか 客員教授。専門はエンタテインメント法。内閣府知財本部・文化審議会ほか委員。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「エンタテインメント法実務」(編著・弘文堂)、「インターネットビジネスの著作権とルール(第2版)」(編著・CRIC)など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。X:@fukuikensaku
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com

