
近年、中国ドラマの人気が急激に拡大している。特に美男美女のキャストが揃い、豪華なセットや衣装、CGとワイヤーアクションを使った派手な剣戟で魅せる時代劇は、中国ドラマの鉄板ジャンルだ。しかし、実際に観たことがないという人はまだ多いだろう。かくいう筆者もその一人だった。そこで今回、CS放送・チャンネル銀河にて日本初放送となる法医学サスペンス「朝雪録〈あさゆきろく〉」(6月2日[火]より毎週月曜-金曜夜11:00-深夜0:00)を先行視聴。中国時代劇は本当に面白いのか、この目で体験してみた。
■日本初放送…2025年夏を代表する中国時代劇のヒット作
「朝雪録〈あさゆきろく〉」は、子役出身で演技派女優と言われるリー・ランディーと、今が最旬と呼び声高い若手俳優アオ・ルイポンが共演する時代劇。中国ドラマに疎い筆者は名前だけではピンとこないが、ファンにとってはこれだけでグッとくる組み合わせだという。
リー・ランディーが演じるのは、薬王谷で医術・解剖学を学んだ娘・沈莞(しんかん)。アオ・ルイポンが演じるのは、睿王(えいおう)の世子にして知勇を兼ね備えた若き将軍・燕遅(えんち)。物語は、沈莞と両親が軍の兵に追われ、両親と側近は矢を受けて落命。川に飛び込んだ沈莞だけが惨劇を生き延びるシーンから始まる。
沈莞の父は朝廷に仕える優秀な検視人だったが、"晋王に関わる事件"に巻き込まれ、濡れ衣を着せられてしまったらしい。秦莞(しんかん)と名と身分を変えた沈莞は、都から遠い荊州へ身を移し、そこで"晋王事件"を追っていた燕遅と出会う。
復讐のため燕遅の後ろ盾を得ようと考える秦莞は、燕遅の親族家・安陽侯府で起きた"首なし花嫁事件"の解決に名乗りを上げる。秦莞=沈莞だと知らない燕遅は、やがて彼女の検視人としての腕と聡明さ、そしてその強さに心を動かされていく。
本国では2025年夏に中国で配信されたばかりという最新作。CS放送・チャンネル銀河では、6月2日(火)夜11時より本作の放送を開始する。日本初上陸と話題になっていたので、中国ドラマ初体験の一本として選んでみた。
■10話までイッキ見してしまった没入感
10話までイッキ見した感想だが、正直、相当面白い。食わず嫌いというか、中国作品に偏見を持っていたが、とんでもない。まず脚本がよく練られている。最初の事件は、安陽侯府に到着した花嫁が首なし死体で発見されるというもの。道中、輿の中にいた花嫁はいつ、誰に殺されたのか。遺体の状況と合わない綺麗な花嫁衣装。頭部はどこへ消えたのか。序盤からいきなり謎が山積みだ。
薬王谷で修業し、医術も検視も達人の秦莞は、これらを現場検分と遺体検視から論理的に解き明かしていく。検視人とは現代でいう法医学者や監察医のこと。つまり本作は、日本でも鉄板の法医学サスペンスである。大ヒット漫画・アニメ「薬屋のひとりごと」で猫猫(マオマオ)がやっていたミステリー事件の解決を秦莞がやっている、と思えば分かりやすい。作品の雰囲気も似ているので、「薬屋」を面白いと思った人なら絶対にハマると思う作品だ。
古装の時代であるにもかかわらず、秦莞も燕遅も思考は先進的。拷問の末の自白や利害絡みの供述はよしとせず、明確な証拠を持って犯人を裁く。この事件解決の納得感はポイントが高い。糸口は二転三転どころか四転五転し、「なるほど、こいつが犯人か」と思ったところでさらに真相が明かされる手の込みようで、筆者はまんまと騙された。
その後も秦家の連続殺人、井戸の底から見つかる謎の人骨、暴かれる秦家の過去の罪…とドラマは大きく動いていく。全38話の前半は猟奇的事件の解決がメインだが、11話を過ぎたあたりから秦莞は都に戻り、政治的陰謀と父が殺された"晋王事件"の核心へと迫っていく。視聴前の気分とは打って変わって、今は続きが楽しみでしかたない。
■秦莞×燕遅は「薬屋」の猫猫×壬氏の関係そのもの
復讐劇×法医学サスペンスという脚本の面白さに加え、話が進むにつれて分かってくる人間関係の絡み合い、その紐解きも引き込まれるポイントだった。事前に調べた人物相関図は中国語かつ人数が多すぎて把握するのが大変だったが、話の進行とともに飲み込めてくる(序盤の重要人物、重要ワードは本稿最後にメモを用意した)。
舞台装置となる人物が徐々に増え、消えていくのは日本や他の海外ドラマと何ら変わらず、丁寧な組み立てだ。違うと言えば、主要人物はみな美男美女というところか。顔の個性を大事にする日本や欧米とはまた違うが、セットの豪華さと相まって画面が華やかだ。
日本において中国ドラマは女性層から絶大な支持を受けていて、その理由の一つが美男美女俳優によるロマンス劇。本作でもリー・ランディー×アオ・ルイポンのカップルが強力に推されていた。筆者はベタベタな恋愛ものは苦手なので正直ここが一番の不安ポイントだったが、視聴してみるとまた違うものだ。作品の軸はあくまでシリアスな法医学サスペンスで、その上で事件を共に解決するうち、二人は互いが気になる存在へとなっていく。王道パターンだが、それ故に観やすい。
プラス、切れ者の秦莞と燕遅だが、どうにも恋路には疎いようで、二人のズレ感がじつに面白い。シリアスな中に入る適度にクスッとできるロマンス演出。それこそ「薬屋のひとりごと」の猫猫と壬氏(ジンシ)の関係そのもので、くっつきそうでくっつかないもどかしさ。まだ10話までしか観ていないので今後の具合は分からないが、それでも今は、この二人がどう恋仲に進展していくのかがむしろ興味のポイントになってきている。
ちなみに秦莞にはチャーミングな侍女・茯苓(ぶくりょう)、燕遅にはイケメン副官・白楓(はくふう)がいて、主たちが気づかない恋慕の感情をそれぞれ察知している。白楓が事あるごとに燕遅をイジるのもまた楽しい。茯苓と白楓も主の関係から次第に接点が増えていき、こっちのほうが先にカップル成立しそうな勢いなのも見どころの一つとして楽しみだ。

■視聴のためのあんちょこを用意、これを読めば予習は万全
全38話。日本のドラマに比べると長編で驚きだが、テンポよく事件が起き、点と点がつながっていく構成が次話への視聴意欲を駆り立ててくれた。初めての中国時代劇は大満足だったが、一つだけ問題を挙げるとすれば、第1話冒頭の約15分だ。中国時代劇を見慣れていないと人物・位・地名がよく飲み込めず、付いていくのに困ってしまう。
チャンネル銀河公式YouTubeチャンネルでは、5月11日(月)から6月2日(火)まで第1話のオンライン試写会が行われるが、そこでつまずいてしまうのはあまりにもったいない。以下に人物紹介と重要単語をまとめたので、視聴の“あんちょこ”として活用してほしい。
◇沈毅(しんき)…大理寺卿と呼ばれる、主人公・沈莞(しんかん)の父。朝廷に仕える優れた検視人だったが、"晋王に関わる事件"で濡れ衣を着せられ、娘を守って妻と共に非業の死を遂げる。
◇大理寺…本作品時代における司法の最高機関で、現在の最高裁判所にあたる。大理寺卿はその長官の呼称。
◇沈莞/秦莞(しんかん)…本作の主人公。大理寺卿・沈毅の娘で、薬王谷で医術と解剖術を学んだ達人。両親が殺された惨劇から生き延び、親友だった秦莞の名を借りて荊州の秦家へ身を寄せる。
◇秦莞(しんかん)…秦家の九娘子(九番目の娘)。薬王谷で沈莞と共に学んだ親友だが、体が弱く一年前に死去。秦家は彼女が幼い頃に厄介払いのように薬王谷へ送り出しており、今の顔も、亡くなったことも知らない。そのため沈莞は秦家に入り込めた。
◇薬王谷…医術・薬学を学ぶ者が集まる特殊な専門機関。一般では学べない解剖学・検視の技術も扱う。
◇茯苓(ぶくりょう)…沈莞の親友だった秦莞の侍女。秦莞の死後は秦家に戻ることもできず、沈莞に仕えている。沈莞の事情を知る唯一の人物で、献身的に支える。
◇秦家/秦府…荊州の有力な一族。秦府はその邸宅。ロクデナシの集まりで、帰ってきた秦莞を疎ましく思っている。しかし、秦莞が大長公主に寵愛されだすと、途端に態度が豹変する。
◇安陽侯府/大長公主…安陽侯の爵位を持つ皇族に連なる一族。秦家より遥かに格上。当主は老婦人の大長公主。
◇岳凝(がくぎょう)…大長公主の孫娘。武術に長け、秦莞の無二の友として支える。燕遅は従兄にあたる。
◇燕遅(えんち)…本作のもう一人の主人公。睿王の世子で、国境を守る朔西軍を率いる若き将軍。大長公主の孫。秦莞と出会い、当初は疑念を抱くも、その聡明さと強さに心を動かされていく。睿王は、親王にあたる皇族の一人。
◇白楓(はくふう)…燕遅の副官にして右腕。常に燕遅に付き従う。
◇晋王…皇帝の長子。ある事件の渦中にいる人物。
◆文=鈴木康道

