数分して、店長が加藤さんと一緒に戻ってきました。流石に慌てて謝罪をするのかと思っていたのですが、加藤さんの第一声は耳を疑うものでした。
加藤「あー、加藤です。そのご予約の件、この子に伝えたんですけど失念しちゃってたみたいですねー。私も確認すればよかったですー」
葉月「…え?」
信じられなかったです。第一声に謝罪の言葉がないのも、人に責任をなすりつける言い訳も。《あ、この人駄目だ》と、心底思いました。ピリついている店長とお客様を前に、どんな言葉を出せばいいのか。加藤さんの嘘を否定したいのに、不意に殴られた衝撃で何も言葉が出てきませんでした。
加藤「ねぇ、伝えましたよね?橋本さん」
いつもの圧がより私を硬直させ、悔しい気持ちに唇を噛みしめながらも、「もう面倒くさい。どうでもいいか」という気持ちになってしまい、諦めて口を開こうとした瞬間…。
店長「加藤さん、違うよね」
いつも穏やかな店長が、初めて聞く声のトーンで鋭く否定しました。
「この人ダメだ」誰もが感じたできごと
お客様の前にも関わらず、加藤さんの第一声は謝罪ではなく「責任転嫁」でした。まさか、葉月さんのせいにするなんて、信じられません。
ですが、このケーキの注文を受けた日、葉月さんはシフトに入っていませんでした。加藤さんの言い訳は、あまりにも稚拙だったため、すぐに店長に咎められます。
化けの皮がはがれていく…
店長「ご予約いただいた日、橋本さんはシフトに入っていませんでした」
店長が本気で怒っているところを初めて見た気がします。きっと店長も、お客様の前で怒るということはしたくなかったのだと思いますが、何だかんだ、加藤さんを長年雇っている立場の人間として、こうしないといけないと決心がついたのかもしれません。
加藤「いやでも、来てる日に伝えたんです…」
店長「それも本来おかしいでしょ。予約受けた人が僕に報告して、僕がパティシエに伝えて予定リストに載せる、そういう決まりですよね」
加藤「あ、はい、まぁ…」
店長「橋本さん、本当に加藤さんから聞いてましたか?正直に」
店長の言葉に、私は意を決してはっきりと答えました。
葉月「…いえ、聞いていません」
店長「そうですか。…加藤さん、これはありえない話ですよ」
加藤「はい…」
流石の加藤さんも徐々に声が小さくなり、店長と目を合わせられなくなっていました。
新藤「すみません、これは結局どういうことですか?」
進藤さんが問うと、すぐに店長が頭を下げて再度謝罪をしました。加藤さんも頭を下げました。
店長「ご注文いただいていたケーキを今すぐご用意するのは難しく、3~4時間ほどお時間をいただいてしまいます。違うものとはなってしまいますが、こちらのショーケースにあるホールケーキでも宜しければ、すぐにメッセージプレートをご準備致します」
新藤「だって。これでいい?圭太」
新藤の子ども「えー。うん、いいよ…」
息子さんもきっと、好きなケーキを楽しみにしていたと思います。年に一度の自分のお誕生日ケーキ。幼いながらに我儘して泣きそうになっているその子の姿を見ていると、心が痛くなりました。せっかくのハッピーな日に残念な気持ちにさせてしまったことを、加藤さんにはもう少し重く受け止めていただきたいと思いました。
その瞬間、新藤さんの子どもが加藤さんに向かってこう言いました。
新藤さんの子ども「おばさん、ウソはダメ。僕でも知ってるよ」
その子からの言葉に加藤さんは驚き、目を見開いていましたが、眉を歪めながらも頭を下げて、また息子さんに謝罪をしていました。
ハッピーなはずの誕生日を台無しにし、子どもに「ウソはダメ」と、言われてしまった加藤さん。さすがにバツが悪かったのか、お客様に何度も謝罪します。
何年も、新人いびりや無視などを繰り返してきた加藤さん。ベテラン従業員だからと、あぐらをかいていた結果、次々と本性があらわになりました。

