
監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。
ぎょう虫症の概要
ぎょう虫症とは、ぎょう虫(Enterobius vermicularis)が病原体となる感染症のことです。
ぎょう虫は、ぎょう虫の卵を飲み込むことにより感染します。飲み込まれたぎょう虫の卵は、腸の中で孵化し、腸で成長します。孵化して2週間から6週間経過すると、成虫となり、交配を行い、メスが肛門付近まで移動し卵を産みます。
ぎょう虫に寄生されると、肛門部の痒みを引き起こします。肛門を触ることにより、ほかの方にも感染が拡大するおそれがあります。
ぎょう虫症は子どもによく見られます。子どもは大人と比較して手洗いが不十分になりがちであることも感染頻度が高くなる一因となっています。タオルやカーペットなどにぎょう虫の卵が付着し、口から入ることにより、家族間での感染も起こります。
感染がみられる地域は限定されておらず、国内海外問わず症例があります。
日本では、ぎょう虫検査を1961年から学校検診で実施していましたが、衛生状態の改善とともに感染率の低下がみられたため、2016年より学校検診の必須項目から削除されました。しかし、感染者数は戦後間もない頃と比較し少なくなったものの、日本でぎょう虫感染がなくなったわけではありません。
2015年度の東京都のぎょう虫卵検査成績は、検査を実施した幼稚園・保育園・小学校・特別支援学校・ろう学校全体での寄生率は0.10%でした。
ぎょう虫症の原因
ぎょう虫症の感染経路は、経口感染で、ぎょう虫の卵が口に入ることがぎょう虫症の原因となります。糞便に汚染された食物を食べる、肛門を触った手についた卵が口に入る、衣服や布団に付着した卵が口に入るといったことにより感染します。
ぎょう虫は盲腸などで生息します。ぎょう虫が腸で生息していても多くの場合症状はありません。成虫のメスが卵を産むために肛門付近を移動し、粘着性の物質を付着しそこに産卵することが(皮膚への刺激となり)、ぎょう虫症の主な症状である肛門部の痒みの原因となります。
ぎょう虫は線虫類の仲間で、線状の細長い形をした虫です。成虫の大きさはオスは体長2~5mm、メスは体長8~13mm程度です。
ぎょう虫の卵が口に入り、孵化したぎょう虫が腸の中で成長します。成虫となったぎょう虫が肛門付近まで移動し、7000~10000個の卵を産みつけます。ぎょう虫の産卵の際にピンのような尾で身体を支え、その刺激で感染者の肛門部に強い痒みが生じます。
ぎょう虫の卵は、産卵してから6~7時間で感染できる状態になります。夜寝ている間に産卵されることが多く、感染者は痒みにより肛門部を触り、シーツや布団、衣服にぎょう虫の卵が付着し、家族にも感染が広がります。また、感染者が肛門を触り手に付着したぎょう虫の卵が、学校や園などで感染拡大につながることがあります。

