
TOKYO MXで放送中の「TOKYO 1weekストーリー」(毎週木曜夜5:59-6:30)は、毎回、東京で生活している人々1組に1週間密着し、その心理状態や行動を見つめる30分のドキュメンタリー。登場するのは、老舗の写真館の主人や学生寮を切り盛りする寮母、人力車俥夫を目指す36歳の女性など、そのほとんどが市井の人々だ。この番組でナビゲーターを務めるアンミカに、番組の魅力やナビゲーターとして心がけていることなどを聞いてみた。
■番組に出会って、人生の重みについて考えるようになりました
――アンミカさんから見た、番組の魅力を教えてください。
この番組は、結果ありきではない、どうなるかわからない未来を極力そのままの温度感でお伝えしています。人生の中の1週間ですが、リアルな誰かの苦しみや悩み、喜びや転機などを見ることで、「悩んでるのは自分だけじゃない」とか、1人1人が一生懸命生きてるんだな、と感じて、毎回感動しています。
――具体的には、どのような点で?
例えば、地元で愛されていたお店が、ご主人が病に倒れられたりなどのさまざまな理由で続けられなくなった時に、ご縁があった人が引き継いでいくというパターンがあるんですが、血の繋がりの無い方が継ぐというのは相当な覚悟が要ることだと思うんです。人生を変えて、地域の人に憩いの場を与えるのは、とても徳の高いことをされてるな、と感じています。私はこの番組に出会って、人生の重みや、自分の一挙手一投足が与える影響についてもすごく考えるようになりましたね。

■VTR後のコメントは、自分の言葉で伝えるようにしています
――アンミカさんは、登場するのは番組の最初と最後ですが、毎回必ずVTRをご覧になって臨まれているそうですね。
はい。ただ台本通りに喋るだけならば、スタジオに来て10分で終わるんです。でも、特に締めのコメントは、自分が映像を見て感じたことを言葉にしたい、というこだわりがあって、そこはすごくワガママを言って、字幕スーパーなどが入っていない状態でも収録前に必ず見せていただいています。
――冒頭に「こんばんは」っておっしゃるトーンが、いつもその回の内容に合っているので、毎回VTRをご覧になっているんだな、と感じながら見ていました。
そんなところまで感じていただけて嬉しいです。衣装も、病と向き合うなどの深刻な回はちょっとシックに…などと心がけてます。
――最後のコメントはご自身の言葉で、とのことですが、アンミカさんならではの視点だけではなく、俯瞰で見たフラットな視点も入れるようにされたりも?
できるだけフラットに見るようにはしているんですが、感情的な人間なので(笑)、毎回VTRを見ながらあれこれ言ってます。だから、スタッフの方と深く話し合って最後の文言を決めているんですが、フラットなコメントを言ったことで後味がサラッとしてしまったり、皆さんが感情の置きどころを迷うようなことになってはいけないし、私の理念が入った言葉で締められることで、せっかく皆さんが誰かの人生をできるだけそのまま受け止めようとしていたのに、それが変わってしまうのも良くない。難しいところですよね。すごく責任がある役目だと思っています。
――短いコメントに、そんなご苦労が…。
時間をかけると、いろんなことを考えすぎるので、毎回、見て感じたフレッシュな感覚を大切に、すぐに文章にまとめて、その温度が熱いうちに収録するようにしています。この番組は、密着を快く引き受けてくださった皆様も、適度な距離感でずっとカメラを回し続けるディレクターの方も、お互いに「時間」という命を使って作っているので、私もすごく大事にしています。
■“視聴者目線”を大切に
――VTRは1週間分を30分弱に凝縮していますが、できることなら全部ご覧になりたいですか?
見たいです!だから、すごく質問します。「今、この言葉出たのはなぜですか?」「ここはカットされてるんだったら、何があったのか詳しく聞かせてください」って。ある意味、私が一番最初に見る視聴者でもあるので、皆さんも知りたいんじゃないかな、と感じたところは、差し出がましいんですけど、いろいろ聞いてしまいますね。
――視聴者目線を大事にされてるんですね。
そうですね。ナビゲーターという立場では制作側かもしれませんが、極力、視聴者側でいようと思って、見た直後のストレートな疑問や気持ちをスタッフに伝えるようにしています。

■印象に残っている回について
――特に印象に残っている回は?
全部の回に思い入れがあるんですけど…。「五反田の写真館」の回は、本当に印象深かったですね。人生を切り取って残していく写真館って、私もですが皆さんも一度は訪れたことがあると思うんです。今、携帯のカメラが進化して、証明写真でも自分の好きなように撮れる時代になってる中で、おじいさんの代から続けていて、7日目の時に現在のご主人がお父様を撮って、やっと認められて…っていう、ご主人の“人と、なり”みたいなものや、お客様との関係など、いろんなものが見えて…。“時代と手を繋ぐ”ということの厳しさだったり、五反田という開発がとても進んでる地域の中で町の方と一緒に前に進んでいく様子など、多面的に感じる部分が多かったですね。
――他にもありますか?
「小児がんで視力を失った5歳の女の子」の回も、学ぶことが多かったです。生まれつきじゃなく、どんどん見えなくなったことで、お母様が「早く気づいてあげられなかった」と苦しむ姿もつらかったです。私たちが見たのは1週間という人生のほんの一瞬ですが、家族にとってはこの先も続いていくので…。ただ見ているだけじゃなく、私たちに何かできることは無いだろうか、とすごく長くスタッフとも話し合った回でしたね。

■ドキュメンタリーの醍醐味とは
――「退職代行」に密着した回は、いかがでしたか?
「退職代行」って、賛否が非常に分かれる存在だと思うんですね。いろんな事情で自分からは「辞めます」と言えない方々にとっては救われている一方で、雇った側からしたら「やっとこれから…」って時に、才能もあったのに「辞めます、では済まない」となる。辞めることを他人に言わせるのは甘やかすことにはならないのか、という意見もありますが、今回登場した代行業の社長さんは、「自分の前職での過酷な経験から、退職することは誰でも簡単にできることではないと気付いた」ということを知ることができました。代行を使った方が、「退職代行があるからいつでも辞めていい」じゃなく、「退職代行に今回はお世話になったけど、次の職場ではもっと頑張ってみよう」って思う未来があればいいなって強く感じたんですよね。
――たしかに、この回を見るまで、私も「代行」に対してネガティブな想いだけがありました。
時代の変化と共に価値観も日々変わっていく中で、何が正しいかは1人1人
違いますよね。一方的な情報だけで批判することが広がりやすい世の中なので、両方の立場をしっかり描いてくださったこの回は、すごく勉強になりました。私が知りたかったことが見られた、というか…。
――特に考えさせられる回だった、と。
「いいか、悪いか」とか、問題にしてほしいのではなくて、ただリアルに伝えることで視聴者がどう感じるか―そんなところがドキュメンタリーの醍醐味なのかな、と。スタッフさんがすごく注意深く編集されているのを毎回感じます。どちらにも重きを置かず、今起こっていることを粛々と伝えてくださっていることが美しいなと思いました。
■1週間を見てみたい人物は…
――今後、1週間を見てみたい方は居ますか?
たくさん居ます。誰かをマネージメント されてる方とか。私も、頼れる分、ついアレコレオーダーしてしまいますがが、マネージャーって私たちが見えない部分で、時間と命を使って仕事をしてくれてる。感謝をもってそんな部分を見てみたいです。
私はファッション業界に身を置いてるので、ファッション関係でいえば、ディスプレイ業に密着していただきたいですね。ディスプレイはお店のイメージを左右しますし、お客様によってはそのままコーディネート一式を買っていくこともありますよね。季節や時代の流れを読んで決めていく、大変なお仕事だと思います。
――私たちにとっては、どれだけ苦労したかは関係なくて、出来上がった結果だけで判断してしまいますもんね。
そうなんですよ。例えば、ホテルのエントランスのロビーの花でそのホテルの印象が決まったりするじゃないですか。「この花をこうディスプレイしよう」と決まるまでに、任された方は言われたことだけをやるんじゃなく、自分の我やこだわりとの折り合いをつけたりしてるはずなので、カタチになっていく様子を見てみたいです。
――他には?
個人的に、コンテスト系を見るのが好きなんです。本来、人に順番は決められないんですけど、それが1つのモチベーションになるのであれば、あってもいいのかな、と思ってるんですね。私は「STAFF OF THE YEAR」(ファッションブランドの店員が接客の技術を競い、“令和のカリスマ店員”を決めるコンテスト)の審査員をさせていただいているんですが、皆さん、接客のマナーや次にまた来店していただく為の工夫や研究を色々とされてるんですよ。出場される方がどんな思いで努力して、周りの方々がどんな協力をしたのか、きっとそれだけではない頑張りもたくさんあるはずなので、すごく興味があります。
■悩んでいる若い方は、特に見てほしい
――番組をまだご覧になったことがない方へメッセージをいただけますか?
私は、学園祭や講演会で若い方と比較的お話する機会が多くて、悩みを聞くと、夢が無い、自信が無い、自己肯定感が低いという方がとても多いんです。他人と触れ合って、人との温かい絆みたいなものを育んでいく年齢の時にコロナ禍になり、その機会が奪われたことも理由なのかと思っています。もちろんあらゆる方にご覧になっていただきたいですが、特にそういう若い方にこそ見ていただきたいですね。「みんな、より良い人生を歩むために、もがきながら一生懸命頑張ってる。悩んでるのは自分だけじゃない、大丈夫!」って、わかってもらえたら嬉しいです。
人間って誰でも、普通に生きてる姿を切り取るだけでもちゃんとドラマがあるし、登場した方の1週間の内のどこかは、必ず自分の心のチャンネルに合う一瞬があるはずです。30分ですから!是非見てみてください!私も、毎回収録を心待ちにしているほど、本当に大好きな良い番組です。

■次回は、団地のお祭り復活を目指す大学生の1週間
次回、10月9日(木)放送回では、砂町の巨大団地で、コロナ禍以来6年ぶりに団地のお祭り復活を目指す大学生に密着。「生まれ育った団地に活気を取り戻したい」と、大学を休学してまで立ち上がる様子を追っていく。同じ志を持った幼なじみと協力し、チラシ配りからスタート。住民との絆に共感したり、団地の子ども達を楽しませたいという気持ちに感動したり、奮闘する若者を応援せずにはいられない。アンミカが言うように「必ず自分の心のチャンネルに合う一瞬」があるはずだ。
◆取材・文=鳥居美保


