急性大動脈解離の予防法とは?メディカルドック監修医が急性大動脈解離の原因・症状・予防する可能性の高い食べ物・発症のリスクを上げやすい食べ物・飲み物・予防するために大切な生活習慣・運動習慣などを解説します。

監修医師:
藤井 弘敦(医師)
三重大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で初期研修、河北総合病院で外科研修を経て現在は菊名記念病院で心臓血管外科医として日々手術・重症者管理を行っている。医療用アプリの開発や在宅診療、海外で医療ボランティアを行うなど幅広く活動している。外科専門医、腹部ステントグラフト実施医/指導医、胸部ステントグラフト実施医、米国心臓病学会ACLSプロバイダー、日本救急医学会JATECプロバイダーの資格を有する。
「急性大動脈解離」とは?
急性大動脈解離とは、大動脈の壁が裂けてしまう重篤な疾患です。
大動脈は、心臓から全身へ血液を送り出すための人体で最も太く重要な血管です。大動脈の壁は「内膜」「中膜」「外膜」という三層構造をしており、これらが一体となって強固な構造を形成しています。
しかし、何らかの要因でこの内膜に裂け目ができると、血液が本来の血流経路(真腔)ではなく、中膜の層へと流れ込み、新たな空間「偽腔(ぎくう)」を形成します。この偽腔にどんどん血液が入り込み偽腔が拡大することで真腔が圧迫され、血流が阻害されてしまいます。
その結果、心筋梗塞や脳梗塞、腸管虚血や腎機能障害など、重大な臓器障害を引き起こすことがあり、さらに外膜まで破れてしまう(破裂)と、致命的な出血をきたし、極めて高い確率で死亡に至る可能性があります。
急性大動脈解離は解離が及んでいる範囲により2つのタイプに分けられます。心臓に近い上行大動脈にまで及んでいるものを「スタンフォードA型」、上行大動脈には及んでいないものを「スタンフォードB型」と分類します。A型は特に緊急性が高く、手術などの迅速な治療介入が求められます。
急性大動脈解離の主な原因
急性大動脈解離は突発的に発症し、命に関わることもある重大な病気です。引き金となる原因はいくつかあり、ここでは特に関連が深いとされる4つの因子について、それぞれの特徴や注意点を紹介します。
高血圧
高血圧は急性大動脈解離の最も重要なリスク因子とされています。長期間にわたり血圧が高い状態が続くと、大動脈の内膜に負荷がかかりやすくなり亀裂が生じやすくなります。特に急激な血圧変動には要注意です。高血圧は自覚症状が乏しいことが多いですが、頭痛、めまい、胸の圧迫感を感じたときや、家庭で測定した(収縮期)血圧が繰り返し140mmHg以上を示す場合は、早めに内科や循環器内科で相談しましょう。また、脱水や強くいきむ行為、急激な寒暖差も血圧上昇の原因となるため、日頃から安定した体調管理を心がけることが大切です。
動脈硬化
動脈硬化とは、血管内壁に脂質やカルシウムなどが沈着し、血管が硬くなって弾力性を失った状態です。硬くなった血管壁は柔軟性を失うため、血圧の変動や血流による圧力に対して脆弱になり、解離が起こりやすくなります。喫煙、糖尿病、脂質異常症、運動不足などの生活習慣が動脈硬化に関与しています。自覚症状がないまま進行することが多いため、健診でコレステロールや血糖が高いと指摘された方、喫煙習慣のある方は特に注意が必要です。胸痛や歩行時のふくらはぎの痛みなどがある場合は、早めに循環器内科での診察を検討しましょう。
年齢
加齢に伴い血管の柔軟性は失われ、次第に硬くなっていきます。このため、年齢が高くなるほど急性大動脈解離のリスクは増加します。発症は70歳代に多くみられ、高齢者が急な胸や背中の痛みを訴えた場合には特に注意が必要です。高血圧や動脈硬化の既往がある場合は、定期的に主治医と相談し、必要に応じた検査を受けておくことが安心につながります。
遺伝性疾患
マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などの遺伝性疾患を持つ方は、生まれつき血管壁が弱いため、若年であっても急性大動脈解離を発症するリスクがあります。これらの疾患では、高身長や細長い手足、関節の過可動、視力異常、心臓弁膜症などが見られることがあり、家族歴がある場合は特に注意が必要です。心配な方は循環器内科の受診や遺伝カウンセリングを検討してみましょう。

