「個性があって調和していて飲み飽きない」 五島つばき蒸溜所のマスターブレンダー・鬼頭英明さんが考える“いいウイスキー”の条件

「個性があって調和していて飲み飽きない」 五島つばき蒸溜所のマスターブレンダー・鬼頭英明さんが考える“いいウイスキー”の条件

料理に合うウイスキーの選び方


taso:どういう料理にどういうウイスキーが合うかというのは、考え方などがあるのでしょうか?

鬼頭:ウイスキーは香りが強いので難しいです。ピート(スモーキー)フレーバーが強いものやエステルが強いものなど、そっちの香りが勝ってしまって食べ物と合わせにくい。逆に言うと、食べ物に合わせやすいのは香りのあまり強くないウイスキーです。だから、そんなに高くないスコッチや香味がマイルドな日本のウイスキーをハイボールにするとかがいいですね。

taso:今までが正解だったということですね(笑)。


鬼頭:お高いものは、それ単独で楽しむほうがおいしいです。せいぜいアテにするのは、ドライフルーツやチョコレート、濃い味の乾き物などです。味や香りの強いウイスキーは食べ物にはちょっと合わせにくいですね。

taso:なるほど。

鬼頭:キリンの『陸』というウイスキーは、ソーダ割りにすると食に合います。蒸留酒は、生臭い香り、ちょっと不快な香り、加熱した香りなどをマスキングしてくれる力がある。あと、タンニンが入っているので、脂っこいものの後味を切ってくれる。そういったところをうまく活用できるのは、グレーンウイスキー主体の『陸』やサントリーさんの『角』、ニッカさんの『ブラックニッカ クリアブレンド』など。香味の穏やかなものが料理には合うと思いますね。

昔とは変わりつつある“いいお酒”の定義


小竹:鬼頭さんがキリン時代に開発した商品の一例としては、『ボストンクラブ淡麗原酒』、『エバモア21年』、『富士山麓シングルモルト18年』、初代のキリンチューハイ『氷結』、『キリンフリー』、『杏露酒』シリーズなどがあります。たくさんお酒を作られてきていますが、最高傑作だと思うものはありますか?

鬼頭:自分なりに新規性が高くてよくできていると思うのは、『氷結』の早摘みシリーズです。チューハイはフルーティーで甘くて酸っぱいものを中心に作ってきていたのですが、甘くないけどちゃんと果実のおいしさとフレッシュさがあって、なおかつ料理に合わせやすいものを作りたいと思ったんです。

小竹:うんうん。

鬼頭:甘くしないと水っぽくなるので、水っぽくならないようにいろいろな工夫をしたのが『氷結』の早摘みレモン、グレープフルーツ、すだち&かぼすの3種類です。すだち&かぼすとグレープフルーツは、私の中では最高傑作だと思っています。鍋物と一緒に早摘みすだち&かぼすを飲むと無限に飲めますね。

小竹:それはどういった研究をして作ったのですか?

鬼頭:すだち&かぼすは土瓶蒸しにヒントを得ました。土瓶蒸は松茸などのいろいろな材料を入れて、最後に青柚子やすだちを絞る。青柚子やすだちなどの青い果実はアミノ酸が入っていてうま味があるんです。うま味を引き立てながら、柑橘感がつくというすだちやかぼすの良さを土瓶蒸しで感じて、これをチューハイにすれば絶対に料理に合うと思ったんです。

小竹:昔と今で“いいお酒”の定義は変わったと感じますか?

鬼頭:大きく見ると変わってきていますね。WHOもアルコールは百害あって一理なしと言っていて、若い人たちを中心にアルコール離れがすごく進んでいる。でも、ただ酔うために飲むのではなく、楽しむために飲むという方は逆に増えているんです。だから、値段が安くてアルコールがたくさん飲めるというものの需要はどんどん落ちていますが、より味わいが深いものは数的には増えてきていると感じますね。

小竹:今は個性があったり思いが詰まっていたりするお酒が評価を受けることが多いですよね。

鬼頭:確実にそういうものは増えてきています。でも、安く酔えるとか、暑いときに喉を潤すことができる飲み物とかももちろん必要だと思うんです。そういう意味では、市場がだんだん二分されてきているかもしれないですね。

小竹:そういう時代になってきて、鬼頭さんはどう感じられていますか?

鬼頭:アルコールは害だと世界的に言われてきているので、酔うために飲むものはどんどん減ってくると思うんです。そんな中で、お酒の機能は何かと考えると、右脳の幸せとか、気持ちの幸せとか、そういったものなのではないかと感じていますね。

小竹:それは鬼頭さんにとって、幸せな時代が来たという感じですか?

鬼頭:アルコールはもともと好きなので、どちらも幸せなのですが、ブレンダーとして開発者としては、よりお客さんに深く刺さって、お客さんに深く楽しんでいただけるものが作れる。今までの経験や培ったものを使って、よりそういったものを作れて、そういったものがちゃんとお客さんに届けられて、そういったものに共感していただけるお客さんが増えてきているというのはすごくうれしいですね。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第44回・第45回(9月19日・26日配信) 鬼頭英明さん


大学院修了後、32年間、酒類メーカーでウイスキーのブレンド及び原酒開発を中心にスピリッツ、リキュールなど洋酒全般、焼酎、ワインなどの中味開発に従事。数々のヒット商品の中味を開発(ボストンクラブ淡麗原酒、エバモア21年、富士山麓、杏露酒シリーズ、キリン氷結シリーズ、キリンフリー、キリンビターズなど)。 現在は仲間と設立した株式会社五島つばき蒸溜所にてジンの原酒開発、ブレンド(香味)開発をはじめ製造全般を担当する一方で、新興のウイスキーやジンの蒸溜所の支援も行っている。 モットーは「商品を通じてお客様の幸せに貢献すること」

五島つばき蒸溜所公式HP

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【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子


クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。
趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

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