一方、麻衣が休んでいる職場の同僚たちは、彼女たちが戻ってくることをどう思っているのだろうか。独身で子どもがいない理恵は、麻衣たちの復帰を心待ちにしている一人だった。しかし、彼女自身もまた、人手不足の職場で日々、見えない「皺寄せ」と闘っていた。理恵は、子持ちの同僚の苦労は理解しつつも、ときには心の中で、仕事の負担に対する複雑な思いを抱えていた。
深夜までの残業。「皺寄せ」が悪化したとき
理恵は入社3年目。独身で子どもはいない。麻衣が休業に入る前は、同じチームで働く仲だった。理恵は麻衣の育児休業中、彼女の業務の一部を引き継ぎ、人手不足の穴を埋めるために毎日深夜まで働いていた。
「子どもがいる人は本当に大変そうだな」。理恵はそう思っていた。以前、シフト制の職場で、子持ちの先輩が子どもの高熱で急に休んだ際、理恵は連勤で対応し、非常に大変な思いをした経験がある。だが、その先輩が日頃から一生懸命仕事に取り組んでいる姿を知っていたため、「仕方ないことだ」とネガティブな感情を抱くことはなかった。
しかし、最近は少しだけ状況が変わってきた。人手不足が深刻化する中で、会社は新しい人員を補充しようとせず、残った若手や独身者に負担が集中していた。
インフル予防接種のキャンセルで感染。それは「自己都合」ではないのか?
ある日、ママ社員が大事なクライアントとの会議がある日に仕事を休んだことがあった。後で理由を聞くと「インフルエンザの予防接種の予約が取れなくて、たまたま罹って入院になった」というものだった。理恵は「もっと病院を探せば予防接種くらい打てたんじゃない?自己責任なんじゃないの?」と、さすがにモヤモヤした。
「もちろん、お子さんのことは最優先すべきだし、会社が人員を補填しないのが悪いのは大前提だけど…」
理恵は、自分たちが受けている「皺寄せ」が、会社構造の悪さから来ていることは理解していた。でも、その皺寄せが、「子どものために休むのは当然」という態度の同僚から来ていると感じると、理恵の心には、抑えきれない疲労と不満が溜まっていった。彼女は、謙虚で感謝を忘れない子持ちの同僚は好きだったが、中には「休んで当然」という態度に見える人もいた。
理恵は、SNSで「子持ち様」という言葉が飛び交うのを見て、残念ながら「わからなくはない」と感じていた。それは、子育て世代への否定ではなく、不公平な労働環境に対する悲鳴だったのだ―――。

