栃木県上三川町で起きた強盗殺人事件をめぐり、指示役とみられる夫婦が逮捕された。SNSでは、その「妻の写真」とされる画像が拡散している。
パトカーの後部座席に座った女性が、中指を立てている写真だ。
ただ、一部ユーザーからは「AI生成ではないか」との指摘も出ている。画像の出どころは不明で、写っている車両も栃木県警ではなく警視庁のパトカーのように見えるなど、たしかに不自然さはある。
事件報道では、逮捕直後から“関係者画像”が一気に広がることはめずらしくない。最近は生成AIの普及もあり、「本物っぽいが真偽不明」という画像がSNSで拡散されるケースも増えている。
では、仮に完全なAI生成のフェイク画像だった場合、法的な問題はあるのだろうか。
●「実在する人物」を権利侵害しているか
インターネット上の誹謗中傷問題に詳しい清水陽平弁護士によると、法的責任が問題になるには、基本的に「実在する人物」の権利侵害が必要になる。
つまり、AIがゼロから作った架空人物で、実在する誰かと結びつかないのであれば、「誰の権利を侵害したのか」が成立しにくい。そのため、原則として違法と評価するのは難しいという。
一方で、実在する人物を参考にAI加工したケースは別だ。
「たとえば、ある女性の顔写真をもとに画像を生成し、『強盗殺人の指示役』と受け取られる形で拡散した場合、その人物の社会的評価を下げるとして、名誉毀損が成立する可能性があります」(清水弁護士)
●画像を見た瞬間に拡散しない
では、仮に拡散された画像が“本人の実際の写真”だった場合はどうか。
この点について清水弁護士は、「報道機関が撮影した写真を無断で切り抜き、転載した場合は、著作権侵害となる可能性はある」と指摘する。
もっとも、それ以外の点については、逮捕報道の文脈で本人写真が使われること自体を直ちに違法と評価するのは難しい面もあるという。
SNSでは、真偽不明の画像が“事実”として一気に広がることも少なくない。とくに重大事件では、「それっぽい画像」が独り歩きしやすい。
画像を見た瞬間に拡散する前に、「出どころはどこか」「本人である確認は取れているのか」を一度立ち止まって確認することが、結果的には自分自身のリスク回避にもつながりそうだ。
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第5版(弘文堂)」などがあり、マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:https://www.alcien.jp

