コンビニから帰ってきた和也の顔を見た瞬間、沙織の怒りは頂点に達した。しかし、和也は全く悪びれた様子がない。証拠を突きつけられた後の彼の行動は、沙織が最も恐れていた「不倫する男のテンプレート」そのものだった。謝罪の言葉ではなく、自己保身の言い訳を並べ、ついには「一人になりたい」と家を出ていく。そして、沙織の脳裏には、和也がこれから向かう予定の「研修」という二文字が、恐ろしい未来の予兆として浮かび上がってきた。
血の気が引いた夫が並べる「悪いことはしていない」という稚拙な言い訳
和也が帰宅し、沙織が黙ってスマートフォンを突きつけると、彼の顔から血の気が引いた。しかし、彼はその場で謝ることはしなかった。
「何だよこれ。別に悪いことはしていないだろ」
「最近知り合って、たまたまLINEしてただけだから」
彼は目をそらし、次々と稚拙な言い訳を並べた。沙織は、この期に及んで自分の非を認めようとしない和也の姿を見て、さらなる嫌悪感を覚えた。
「悪いことしてない?既婚者って隠して、他の女に好きになりそうってLINEしてるのが?」
沙織は声を震わせた。
「子どもたちの父親として、おかしいと思わないの?」
和也は沙織の追及から逃れるように
「今は1人になりたい」
と言い残し、家を飛び出していった。その後、彼からLINEでメッセージが届く。
「魔が刺した。信じてもらえないのは充分承知だけど、実際なにかするつもりもなかったし、事実として気持ちは一切ないから」
「気持ちはない」が嘘だと確信。気づかなかったら確実に会っていた
沙織は鼻で笑った。まさに、不倫をする人間が必ず口にするテンプレートのような言葉だ。そして、沙織は気づいてしまう。和也は10月から半年間、研修で家を離れる予定になっている。その研修先は、あの女性が住んでいる県からわずか二つ隣の県だったのだ。
「ああ、もし私が気づかなかったら、この半年間で絶対に会っていた」
「最初はゲームで一緒にプレイするだけだったのに、話している間に本気になったんだ」
沙織は確信した。LINEの中でも「10月どうのこうの」といった会話があった。和也は、気持ちはないと言い張るが、たった一週間で個人的なLINEを交換し、親密な言葉を交わす時点で、下心があったのは明白だ。研修先での「たまたま」を装って、彼女と会うつもりだったのだろう。
沙織の心は、和也の言い訳と、裏切りの計画を確信するに至ったことで、冷え切ってしまった。このままでは、彼は半年の検収後に戻ってこないかもしれない―――。

