「昨日まで普通に見えていたのに」と感じる、突然の視力低下。網膜静脈閉塞症では、閉塞が起きた場所によって症状の現れ方が大きく異なります。網膜全体に影響が及ぶ場合もあれば、視野の一部だけに症状が出る場合もあります。どのような変化が起きているのか、また受診のタイミングについても詳しく解説します。

監修医師:
柳 靖雄(医師)
東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。
突然の視力低下:発症時に何が起きているのか
網膜静脈閉塞症の、患者さんを不安にさせる症状が、突然訪れる視力低下です。「昨日まで何ともなかったのに、朝起きたら片方の目が急に見えにくくなっていた」というように、その変化はしばしば劇的です。しかし、その変化は、閉塞した血管の部位によって、劇的な場合もあれば、ゆっくりと進行する場合もあります。また、黄斑部から離れた部位では、まったく無症状のこともあります。
視力低下が突然起こる理由
静脈の閉塞は、多くの場合、明確な前兆なしに発生します。長年の高血圧などにより動脈硬化が進行すると、網膜内で動脈と静脈が交差する部分で、硬くなった動脈が柔らかい静脈を押しつぶすようになります。この圧迫によって静脈の内腔(血液が流れる空間)が狭められたところに、血液の塊である「血栓(けっせん)」が形成されると、血流は完全に、あるいはほぼ完全に遮断されます。血流が途絶えると、静脈圧が急激に上昇し、血管からは血液成分が漏れ出し始めます。血管からは血液成分が漏れ出し始め、視機能への影響が数時間から数日のうちに現れます。このプロセスは、交通量の多い高速道路で大規模な事故が起き、「出口のない大渋滞」が発生し、周囲の一般道まで機能不全に陥る様子に例えることができます。
視力低下の程度はどのくらいか
視力低下の深刻度は、どの静脈が、どの範囲で閉塞したかによって大きく異なります。網膜のすべての静脈が合流する根本部分「網膜中心静脈」が詰まるタイプを「網膜中心静脈閉塞症(CRVO)」と呼びます。この場合、網膜全体が出血と浮腫の影響を受けるため、視界全体がかすみ、視力が0.1以下にまで著しく低下することもあります。一方、枝分かれした先の静脈の一部が詰まるタイプは「網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)」と呼ばれ、こちらの方が頻度は高いです。この場合は、視野の一部(例えば、上半分や下半分)だけが暗くなる、ぼやけるといった症状にとどまることもあります。しかし、閉塞した場所が視力の中枢である黄斑部に近いほど、症状は重くなります。いずれのタイプであっても、自覚症状が現れた時点で、速やかに眼科を受診することが視力を改善するうえで極めて重要です。
まとめ
網膜静脈閉塞症は、突然の視力低下やものがゆがんで見える症状で発症し、私たちの生活の質を大きく脅かす病気です。しかし、その背景には高血圧や動脈硬化といった全身の健康問題が潜んでいます。この病気と向き合うことは、単に目の治療を受けるだけでなく、ご自身の生活習慣全体を見直す良い機会でもあります。片目の些細な見え方の変化を「年のせい」「疲れ目」と片付けず、早期に眼科専門医に相談すること。そして、診断後は内科医と連携し、血圧や血糖の管理を徹底すること。この二つの柱が、あなたの貴重な視力を守り、再発を防ぐための道筋です。
参考文献
日本眼科学会「網膜静脈閉塞症」
日本眼科医会「網膜静脈閉塞症と診断されたら」
- 「網膜剥離」の手術は何をするの? 術後に日常生活で注意することは?【医師解説】
──────────── - 網膜剝離などの「硝子体手術」を受けるタイミングはいつ? 治療の流れ・術後の生活の注意点まで眼科医が解説
──────────── - 網膜硝子体手術が必要な症状・疾患を眼科医が解説 術後の見え方や網膜剥離など合併症のリスクとは?
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